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「かわいそうに。あなたは随分と未練を残してここに来たんですね」  男でも女でもない静かで深く、冷たい声だった。  瞼を開けるとキツネ目の若い男の顔があった。小柄な体型で、質の良さそうな黒スーツを着ている。 「初めまして。死神です」 「死神……。ああ、そうか。俺はやっと死ねたんですね」  俺の言葉に死神は眉を上げた。 「初対面の相手に死神だと言われて信じるんですか。あなたお人よしですね。それになんで嬉しそうなんですか?」 「ずっとこの時を待ってたんで。ここはもしや、あの世ですか?」  起き上がってキョロキョロと周りを見回すと薄く霧のかかった森のような場所にいた。 「正確にはあの世とこの世の境目と言った所でしょうか。珍しい方ですね。普通はそんなに簡単にご自分の死を受け入れられないんですよ。さっきいらっしゃった妻子を残して来た中年サラリーマンなんて、死んでたまるかーって大騒ぎして大変でした」 「あの、彼女、佐伯香奈(さえきかな)は来てますか?」  死神が一瞬だけ考えるような顔をした。
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