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 差し出されたのは音楽教室のチラシだった。  いつの間にか演奏は終わり、ステージを囲んでいた人だかりも消えていた。 「もしご興味があれば一度遊びに来て下さい。見学は自由ですので」  女性と目が合った。くっきり二重の大きな目で、ショートカットが似合う知的で整った顔立ちをしていた。――今、ピアノを、『紅の豚』の曲を弾いていた人だ!  鼓動がますます早くなる。ステージでピアノを弾いていた方ですよね?生徒さんなんですか?そう聞きたいのに、未知の感情に押しつぶされて言葉が出て来ない。 「森村先生、ちょっと」  女性がそう呼ばれ、「今、行きます」と返事をした。俺にお辞儀をして呼ばれた方に足を向けたその時、彼女がズルッと何かに躓いた。咄嗟に手が出た。彼女の腕を掴み、反対の手で細いウエストを支えると、花のような甘い香りがする。鼻先がくっつきそうな距離で目が合い、息が止まった。 「す、すみません」 「い、いえ」  すぐに視線を逸らし、彼女を解放した。  気まずさと彼女の愛らしさで胸がいっぱいになる。 「あの、本当にすみません。それでは失礼します」  あたふたとした様子で彼女は離れ、何度もすまなさそうにお辞儀をして、恥ずかしそうに駆けて行った。
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