うちのパパが。

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「パパとその人とは第一印象が最悪だった。胸元を大きく広げて香水の匂いもするし、髪も長い。靴先なんかこう…魔女みたいに長くて尖っているんだぞ!こいつとはまともに話すこともできないと思っていた。が、私は営業部長、その人はお得意先の新任課長で、我慢するしかないわけだ。向こうも向こうで時代遅れの親父は頭が固くて話が解らない男だと思っていたらしい。大体その時出会った時が私たちの会社への商品クレームだったから、印象が云々どころじゃない。私は謝った、ひたすら謝った。勤続25年の意地とプライドにかけてをこの得意先をなんとか繋ぎとめる、そう誓った、謝ったよ、いろんな角度から謝った、土下座した、泣いて惨めに頭を下げた」 「だっさ」 「そうだ格好悪いよ、ださいさ、このパパを見てみろ、格好いいところなんかないだろ!でもな、パパは自分の仕事にプライドを持っている、それだけがパパの取り得だ」 「ふうん。……で?」 「…なんだ興味がないんじゃないのか」 「いいじゃん。話したいんでしょ?」 「ま、まあな。それでその場はとりあえず収まった。後日私にその人が電話をかけてきてね、食事でもいかがですかって」 「大胆だねその人」 「その時はそうでもないよ、ただ昔のやり方じゃ今は立ち行かないですよ、土下座なんかされても困るっていうご指摘をしたかったみたいでね。今後来るときはもっと的確な代替案を、なんて言われたのさ」 「性格わる」 「パパも思った。腹が立ったが取引先だと思って我慢していたが酒が入ってきて、段々訳が解らなくなってな…」 「やりあっちゃった」 「うん」 「子供だねえ」 「…ま、まあそれで次の日謝りの電話をするとな、その人はこう言ったんだ。昨日は意地悪言ってごめんなさい。貴方の事をもっと知りたくてやりあってしまったと。本当は私を尊敬できると言ってくれて……うふふっ、嬉しかったなあ。それからは電話とか、LINEとか」 「えっ」 「えっ?」 「パパLINEやってんの?」 「やってるよ」 「先に私に教えなさいよ!」 「えー、めんどくさいなー」 「なにそれ!…で?」 「で、パパ、な」 「うん」 「好きになっちゃった」 「うそ」 「ほんと」 「その人も好きになってたの?パパのこと」 「…から」 「え?」 「最初からだって!」 「まじでか!やばくない?それってさ、」 少女漫画みたいじゃーん! 私は叫びました。恋してんじゃん!ナミヘイの癖に!私だって恋したいのに浮かれた話はいまだ何もありません。 パパ、ていうかナミヘイはもじもじしながら実は、と言いました。 「今日来てるんだよね」 「えっ」 「ドアの向こう側に」 「まじでー?早く呼んでよパパ!ママになるとか云々より、相手見たすぎぃー!」 「えっ?」 「えっ」 私はこの時初めて悪い予感がしたのです。 そして、この日から うちのパパが一人、増えました。 【うちのパパが。】完
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