栗田優の場合

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「――錆びた十円玉っていうけど、これカビみたいに青いっすよ」  資料に付け加えられた写真には、緑青色に変色した十円玉が写っていた。 「十円玉の素材はほぼ銅よ。それも青銅」 「でも、錆って言うから濃い茶色になると思ってました」 「お前、化学嫌いか? お前が言ってる錆はたぶん赤錆だ。鉄の錆な。青銅の錆は青くなるんだよ。青錆ってんだ。奈良の大仏とか自由の女神みたいなやつだ」  おお、たしかに青いと納得したような返事をする隆晴を後目に源次は二つの現場から発見された十円玉を見比べていた。 「この錆、自然のもんじゃあねぇな。薬品かなんかで無理やり錆びさせてやがる」 「だとしたらこれも犯罪ね」  日本の法律において、紙幣はその限りではないが貨幣損傷等取締法にて硬貨の破損や()つぶして地金に戻すことは刑法の対象となっている。 「意図的とすれば、なにか意味があるんだろうな」 「鳥居と十円玉って、……なんか『コックリさん』みたいっすね」  源次と咲が隆晴の顔を見る。 「え? 知りません、『コックリさん』」 「いや、わかるがよ。小学生がする怪談ごっこだろ」 「五十音とイエス、ノーの書いた紙の上に十円玉おいて、みんなで指を添えて狐の霊を降ろすやつね。けど、あれって潜在意識が指を動かすって言われてなかったっけ」 「蓋を開ければ馬鹿げた話だよな」 「二人とも、夢がないっすね。加齢とともに童心捨てたんす……あいたっ!」  隆晴の頭を上司二人が引っ叩いた。源次と咲、同期コンビはこういうときに息が合うのである。 「けど、『コックリさん』か。何かしら意味があるのかもしれんな」
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