津島典明の場合

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「――おーおー。後輩からコーヒーすら奪うとはさすがは強欲だな、ゲン。元気してっか」  井波がニヤけた顔で現れる。彼もまた、津島と栗田に関する聞き込みを請け負っていた。 「んだよ、イヤミ。元気に見えるってか」 「いーや見えないね。空振り続きの九番打者って感じだ」 「九番ならいいんだけどな。そういうお前はどうなんだよ。良いようには見えねえな」 「けっ。お前がこっちのことを気にする必要はねぇよ。情報だけよこしな」 「お話泥棒は下から疎まれるぜ。ま、こちとら泥棒されるだけの情報もねぇけどな」  互いに言葉に棘がある。けれど、共に明確な新情報を掴めていない以上、八つ当たりでしかない。 「井波警部も聞き込みですか?」 「ああ。津島のグズも情報ねぇが、栗田のやつは誰に聞いても品行方正な好青年だとよ。いけすかねぇ。そんな奴に限って絶対裏があるに決まってる」 「ひどい言い草だな。イケメンに恨みでもあるのかよ」 「恨みはないが妬みはあるね。どいつもこいつも顔がいいだけのやつには甘すぎるからな。実力のないやつはいらねぇんだよ」 「栗田は業務成績もいいそうじゃあないか」 「どうせお手柄泥棒だろう。何もかもがうまくいくやつなら殺されたりしねぇよ」  言い得て妙だなと源次がうなずいた。  殺害状況から通り魔的な犯行の可能性は捨てきれないが、それでも遺体の損傷には憎悪すら感じる。死亡後に加えた欠損は、津島に比べて栗田には理由が見当たらない。遺棄するにしても、関節を鈍器で潰す行為自体がそれを物語っていた。
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