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栗田優の場合
「ゲンさん、起きてください。新しいヤマです」
早朝六時。宜野浦警察署刑事部一課の事務所にて、備え付けのソファーに足を投げ出して寝ている刑事――長嶋源次は臭い靴下をテーブルに放置したままいびきをかいていた。
クマのような体格の源次を相手に、新米の相棒である大野隆晴が体を揺すって起こそうとするが、徹夜続きで疲れ果てている源次は一向に起きる気配がない。
「今日もテツマしたんすか、ゲンさん。事務所のソファーはゲンさんの私物じゃないんスよ! いい加減起きろ!」
「あ? おまえ、敬語はどうしたよ。先輩を敬うのが後輩の仕事だろうが」
しびれを切らして口を滑らした隆晴の声に反応して、いびきの途中から会話に参加したくらい一瞬で覚醒する源次に相棒が驚いている。
「お、起きてたんスか? 俺を試したんスカ? 人が悪すぎるんすよ」
「うっせぇな。こちとら八半荘してねみーんだよ起こすなバカ」
「朝まで麻雀とか今どき大学生でもしないっすよ。まさか、賭けてないでしょうね」
賭け麻雀はいかなる理由があろうと刑法第185条の賭博罪にあたり、常習性が認められれば刑法第186条1項の常習賭博罪となる。
「いちいち探るな、オカンかよ」
「署長にチクりますよ」
「署長とやったんだよ言うだけ無駄だ」
「配属されるとこ間違えた―。上司と署長が賭博罪で捕まるとかマジ勘弁っす」
「賭けてね―よ健康麻雀だよ、署長のボケ防止のな」
「朝までやったら不健康でしょうよ」
「ちょっとあんたち、朝から痴話喧嘩うるさいわよ」
「あ、課長。おはようございます」
「相変わらず来るのはえぇな、オカン。おはようさん」
扉を開けて入ってきた女性――岡野咲。源次と隆晴の上司である女性の一課長が呆れ顔で声をかける。
「大野、ゲンに話はしたの?」
「あ。まだっす。ゲンさん寝起き悪いから」
「寝起きのせいにすんなよ。何だよ何かあったか」
「二人目よ。赤い鳥居が付いた御遺体が発見されたわ」
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