栗田優の場合

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 源次の悪態に猛の手が伸びて胸ぐらを掴む。体格差はかなりある二人だが、猛はそれを覆すほどの膂力で源次を無理やり立たせた。勢いよく椅子が倒れ、集まりだしていた刑事たちの視線が集中する。 「てめぇ、管理官のお気に入りだからって調子のんなよ。所轄ならコマ使いとしてしっぽでも振ってろ」 「それこそお前の勘違いだ。しっぽが振れないからって僻むなよ。ゴマすりは得意だろう。新しいミルでも奢ってやろうか」 「――何を騒いでいる、井波警部、長嶋巡査部長。さっさと席に着きなさい」  一触即発の源次と猛の間を割くように、会議室の一番前の長机に荷物を降ろした中年の男が大声を上げた。隣には、若い見た目の男が立っており、胸には会議室にいる男たちの誰よりも高い地位を示す階級章をつけていた。 「ほら、お前が大好きな管理官だぞイヤミ。さっさと前に行きな。ここはお前が嫌いな所轄の席だ」 「ちっ……」  猛は不満げに手を離し、会議室の前方へと移動していく。源次は周りの冷ややかな視線を切って倒れた椅子を立てて座り直した。 「すいません、ゲンさん。俺のせいで騒ぎになって」 「気にすんな。今の俺達にできることは話を聞くことだけだからな」 「全員揃ったか。これより『宜野浦連続鳥居猟奇殺人事件』の捜査会議を始める!」  管理官の傍に座る県警本部捜査一課の係長が指揮を取った。若い管理官――萩原(はぎわら)寿人(ひさと)はただ沈黙を続け、会議の内容に耳を傾けている。
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