栗田優の場合

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 急に態度を変える源次に隆晴は驚きを隠せなかった。彼はいかな上司でも態度が悪いで有名だった。敬いは母親の腹の中に忘れてきたとも言われ、署長や県警本部の重役にもその態度は変わらない。  だが、眼の前にいる若い管理官に、隆晴が聞いたこともないような敬語を並べている。その心境の変化は、まだ源次の相棒になって数年の彼にとっては驚愕するのに十分なほどだった。 「相変わらず、私には……、いえ、わかってはいたことです。長嶋巡査部長、そして大野巡査、これ以上被害者が出る前に犯人逮捕をお願いします」 「了解であります! って、ゲンさん?」  源次は軽く頭だけを下げて会議室の出口へと歩いていった。置いていかれた隆晴は管理官に深くお辞儀をしてそれを追う。  部屋を後にする二人を見送った萩原管理官は部屋の前方に戻り、二人の被害者の顔写真と現在判明している事案を書き記したホワイトボードと正対した。 「珍しいですね、萩原管理官。所轄の刑事に声をかけるなんて」  刑事一課係長が宜野浦地域の広域地図を広げながら声をかけた。  三十代前半にしてキャリア街道を駆け上がり管理官となった萩原寿人からすれば、所轄の中年不良刑事とは見ている景色が違う。媚を売られることはあっても近寄っても特になることなんて何もない関係だ。 「私がここにいるのは、長嶋巡査部長――ゲンさんのおかげなんです」
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