栗田優の場合

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「――ええ!? ゲンさんが萩原管理官の命の恩人!?」 「うるせえなでかい声出すな! オカンも余計なこと言うなよ!」  刑事部一課のデスクに戻った隆晴が絶叫する。鑑識からの資料を読み込んでいる(えみ)の余計な一言に源次は頭をかいた。 「だって、寿人くんはあの萩原警視正の息子よ。今はコンプラ的にアウトな宜野浦では有名な鉄拳刑事だったけど、熱くていい人だったわ」  萩原寿人の父――萩原寿(ひさし)は咲と源次の直属の上司だった。 「だった? だったってどういうことっすか? てか萩原って警視正いましたっけ」 「ああ、お前は知らないのか。死んだんだよ。人質を庇ってな。死ぬ前は警部。二階級特進ってやつさ。もう二十年も前の話さ」 「まだゲンも若かったのよ。私もだけど。自暴自棄になった犯人を取り押さえようとしてね、刺されてしまったのよ」 「昔の話はいいだろ。それよりオカン。鑑識の資料、こっちにも見せろよ」  鑑識係が作成した栗田優の司法解剖の結果の他に、連続性が認められた津島典明のものもつけくわれられていた。  栗田の死因は全身を刃物で切られたことによる大量出血による出血性ショック死と推定され、全身の骨折は死亡後に行われているようだった。赤い鳥居は背中に描かれており、錆びた十円玉は遺棄されたドラム缶の上に置かれていた。  対して津島だが、血液中から毒物が検出されたことから薬物中毒と推定されている。
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