赤い鳥居と十円玉

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赤い鳥居と十円玉

 ――コックリさん、コックリさん。  大雨の中、雨合羽を羽織った誰かが手に持っていたハンマーを捨て、キャンプ用のナイフを取り出す。  老朽化により屋根も抜け落ち、解体の陽の目を見ずに放置された工場地帯の一角。もはや地元の不良少年ですら訪れない、雨風にさらされ腐食した錆と水分を吸ってブヨブヨにくたびれた床材に蔓延ったカビの臭いが鼻腔を刺激する。  ――コックリさん、コックリさん。  先程まで息のあった、血袋が横たわる。体温はまだあるが、そこに命はない。  手足を一つのロープで締め上げて身体をそらされて拘束され、目と口を塞がれ、嗚咽も苦痛も叫べない状態のまま、頭の砕けた中年の男性であった物質が無造作に倒れ、――雨合羽を羽織った誰かはキャンプ用のナイフで拘束に使っていたロープを切った。  ――コックリさん、コックリさん。  死後硬直にまでは数時間ある。そので、為すことを為そうとしていた。血袋を仰向けにし、ナイフで腹の肉ごと乱暴に服を切る。不摂生で大きく膨らんだ腹に深い傷ができるが、露わになった血だらけの素肌に、用意していた赤いペンキで大きく模様を描いた。  横に二本、縦に二本。その模様は、――まるで鳥居だった。乱雑ではあったが、雨合羽が表現したかったのは鳥居に違いがない。  ――コックリさん、コックリさん。  ズルズルと、メタボ体型の血袋を引きずり、人一人が寝そべれるほどの台車に移す。雨合羽が自作した、簡易式の台車がキリキリと音を鳴らしながら、――大雨が降りしきる中、ゆっくりと人目のない工場地帯から移動していく。  夜空に閃光が奔り、遠くから落雷の音が響く。向かう先はどこか。行く先は、雨合羽しか知らない。 【メリーさんのいうとおり/Merry's Mention】
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