カフェラテがぬるい

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「そういえばさ、これも古い話で申し訳ないんだけど」  彼が話を変えてきた。まだボーダーラインの増減要素があるのだろうか。  僕は適当に相槌を打って話を促す。 「前にさ、お前、俺の家に来た時、棚に飾ってたフィギュアを落として壊したことあったよな」  そういえば、そんなこともあった。悪いとは思っている。マイナス10万円位はしてあげようか。 「あれさ、調べたらかなりプレミアが付いててさ、今は30万位するらしいんだ」  ……ほう。 「まったくさ、勘弁してほしいんだ」  彼は続ける。 「お前ならわかるだろ? 人間の場合、面倒臭いんだよ、ウサギと違ってさ」  やはり彼は僕と似ている。  この場合は、一体どうするべきだろう。  お互いの損失金額の差し引きで相殺して、手を打つべきだろうか。  とりあえず少し考えてみようと、適当に相槌を打ちながらカフェラテを一啜(ひとすす)りする。  ぬるくなったカフェラテが口に纏わりついて、妙に具合が良い。そういえば、ナッスンの時も僕はカフェラテを飲んでいた。  あの時と同じ味が、あの時の感覚を反芻(はんすう)させる。  高揚感と浮遊感が心地良い。  ……金額の差し引きで対処を許容するなんて、やはり無粋だ。僕はそう思う。 「それじゃあ、お前のゲームソフトの値段、調べてみようか」  きっと彼も同じだろう。  命の序列なんて、その位で丁度いい。 〈了〉
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