11話 ローグイラの街を脱出

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11話 ローグイラの街を脱出

「…………どうすんだ、これ」  俺は冒険者ギルド内の大惨事を見て、そうつぶやく。  サリーナの瘴気を受けても、幸運なことに死人は出ていないようだ。  しかし、泡を吹いて倒れ込んでいる人、青い顔でうずくまっている人、虚ろな顔でブツブツつぶやいている人などが多数いる。  これはマズイかもしれない。  いや、俺とサリーナが元凶だとはバレていないはず。  こっそりとこの場を後にしよう。  俺は目立たないように、冒険者ギルドから出ようとする。  しかしーー。 「ちょ、ちょっと待ってください! アルフさん!」  受付嬢に呼び止められてしまった。  彼女も少し青い顔をしているが、やや離れたところにいたおかげか、精神力が強いのか、他の者に比べると軽症のようだ。 「ど、どうかしたか?」  俺は震え声でそう返答する。  だいじょうぶだ。  俺たちが元凶だと気づくわけがない。  普通の人に、怨霊であるサリーナは知覚できないからな。 「あやしいです。なんで、アルフさんだけ平気な顔をしているのですか?」  受付嬢がそう言う。 「お、俺は聞いたぞ! そいつが、ブツブツと独り言を言うのをな! きっと、精神系の魔法を使いやがったんだ!」  冒険者の1人がそう言う。 「わ、私は見ました。その方の背後に、おぞましい怨霊が憑いているのを。今は見えなくなりましたが……。きっと、怨霊と結託して私たちを害したのですわ!」  冒険者の1人がそう言う。  彼女は神官風の服を着ている。  聖職者だろうか。  瘴気や怨霊を知覚し、祓う能力を持っているのかもしれない。  本来であれば、サリーナのことを彼女に相談したいところだ。  しかし、今は状況が状況である。  もはや相談できるような状況ではない。 「え、冤罪だ! 俺は何もしていない! 何も知らない!」  俺はそう主張する。  実際のところ、犯人はサリーナだ。  彼女は俺のテイム能力の影響下にあるので、実質的に犯人は俺であると言えなくもない。  つまり、冤罪でもなんでもないわけだが。 「そんな言い訳が通るか!」 「お前のおかげで、ひどい目にあったぜ!」 「許せねえ……! 俺の体調が万全になったら、覚えておけよ!」  冒険者たちが口々にそう言う。  証拠もないのに、人を犯人と決めつけるとは。  これが人間社会の闇というものか。  ……まあ、実際に俺が犯人なのだが。 「ちっ。こんなギルド、二度と来ねえぜ。あばよ!」  俺はそう捨て台詞を残し、冒険者ギルドから出る。  瘴気によるダメージが残っているのか、追ってくる者はいなかった。  そのままローグイラの街を出て、隣街に向けて歩みを進めていく。 「へっ! しけた街だったぜ」 「ご、ごめんね、ダーリン。まさかここまでのことになるなんて……」  サリーナがションボリした顔でそう言う。 「なあに、大したことじゃないさ。次の街でこそ、俺は平和に成り上がってみせる!」  まあ、白銀草の採取依頼やゴブリンの討伐による報酬金はしっかりといただいたし、実害はさほどない。  そもそも、伯爵家を追放された時点でもう失うものなど何もないような状況だったわけだしな。  ここは、小さい頃から俺に憑いていたというサリーナを大切にすることにしよう。  旅は道連れだ。  彼女は黙っていれば可愛いんだが怒ると怖い。  逆に言えば、怒ると怖いが普段はかわいい。  うまく制御できれば、かわいい少女が俺に付き従ってくれるということになる。  それに、瘴気をもっと集めれば、さらなる実体化も可能だと言っていた。  あちこちを旅して回れば、瘴気もきっと集まるはず。  そうすれば、実体化した彼女とムフフなこともできるかもしれない。 「よっしゃあ! いくぞ、サリーナ! 俺たちの輝く明日に向かって。あの夕日まで全力疾走だ!」 「うふふふふ。どこまでも憑いていくよ、ダーリン。世界で一番愛しているわ!」  俺とサリーナは、夕日に向かって駆け出す。  まあ、サリーナは怨霊なので足はないが。  細かいことは置いておこう。  俺たちの旅はまだまだ始まったばかりだ!
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