3話 金縛り

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3話 金縛り

 伯爵家を追放されてしまった俺は、別の領に向かうことにした。  そして、しばらくはローグイラという街を拠点に活動することにした。  夜も遅いので、宿屋を訪れた。  あいにく混雑していたが、かろうじて一室だけは空いていた。    案内された部屋に入る。  ちゃんと掃除されている、きれいな部屋だ。  宿泊費が銀貨1枚と格安なのが気になる。  だがーー。 「ZZZ……」  いつの間にか俺は眠っていた。  長旅で疲れていたのもあるだろう。  そしてーー。 「(……ん? 俺は寝ていたのか……。今は何時頃だ? まだ暗いな……)」  俺は寝転んだままそう思う。  夜中にふと目が覚めてしまった感じか。  姿勢を変えて、もう少し寝ようか。  そう思ったがーー。 「(む? 体が重い……。動かない……)」  体を動かせない。  微動だにしない。  初めての経験だ。  これは、いったいなんだ? 「うふふふふ。この部屋には、瘴気が満ちているわね。やっと実体化できたわ……」  傍らから何やら声が聞こえる。  若い女性……いや、少女の声だ。  俺は動かない体に必死に命令し、何とか眼球だけは声の方向に向ける。 「(ぐ……。ぬぬぬ……)」  少女の姿が見えそうで見えない。  体も動きそうで動かない。 「うふふふふ。この状態で、意識があるのね。大したものだわ……」  少女がそう言う。  この口ぶりからすると、俺の今の状態は彼女のせいなのか? 「(お、俺をどうするつもりだ……?)」  俺は何とかそう口にする。  いや、口に出せているのか?  自分ではよくわからない。 「うふふふふ。もちろん、たっぷりと味あわせてもらうわよ。やっと実体化できたことだしね……」  俺を食うつもりか。  食人鬼か何かか。  それとも、魂を食う悪霊か何かか。 「(や、やめろ。やめてくれ。俺はまだ、死にたくない……)」  伯爵家から追放されてしまったが、俺は人生を諦めていない。  何とか、父上を見返したい。  もしそれがムリでも、平民としてそれなりに幸せに過ごしていくのも悪くはないはずだ。  明日にでも冒険者ギルドを訪れて、初級冒険者として食い扶持を確保したい。  伯爵家の跡取りとして多少の武芸の心得はあるし、1人で生きていくぐらいはできるはずだ。  生活が安定してきたら、かつて俺を慕ってくれていたあの村の様子も確認しておきたい。  俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。 「うふふふふ。何かを勘違いしているみたいね」 「(勘違いだと? 何をだ?)」 「説明するのも面倒ね……。もういいわ、さっさとやっちゃいましょう。もう一度眠っていなさい」  少女が俺に近づいてくる。  そして、何やら眠気が襲ってきた。 「(な、何だ? 眠い……)」  俺は先ほどまで眠っていたし、今もずっとベッドに横たわっている。  本来であれば二度寝しても不思議ではない環境ではある。  しかし、今は謎の少女と会話をしている最中である。  そんな状況で眠くなってくるのはおかしい。  俺は眠気に抗いつつ、少女の様子をうかがう。  ようやく、少女の顔が見えた。  結構かわいい。  だが、生気を感じない。  どことなく不気味な印象すら受ける。 「うふふふふ。まだ起きているの? なかなかの精神力だわ。でも、いけない子ね」  少女のかわいい顔が俺の顔に近づいてくる。  チュッ。  俺の口に、口づけをされた。 「(お、俺のファーストキスが……。いや、それにしてもこれは何だ? 異様に眠い……)」  かわいい少女に口づけをされて、本来であればテンションが爆上げになっていてもおかしくない局面である。  しかし、少女が口づけをしたタイミングで、逆に眠気が加速してきた。  かわいいとはいえ、得体の知れない少女が近くにいる環境で不防備に眠るわけにはいかない。 「(寝ちゃダメだ。寝ちゃダメだ。寝ちゃダm……)」  俺の必死の抵抗も虚しく、俺の意識は薄れていく。 「うふふふふ。これから末永くよろしくね、ダーリン」  少女の満足気な声を聞きつつ、俺は意識を手放した。
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