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7話 怨霊サリーナちゃん
俺は白銀草の採取のために、森に入っている。
黒毒草もついでに手に入れた。
瘴気を呼び寄せる性質を持つ毒草である。
肝心の白銀草がなかなか規定量に達しなかったので、森のやや奥にまで入り込んでいる。
途中から、白銀草の生えているところが強く光るという謎の現象が起きたので、夢中で採取しまくっていたところだ。
「さあて。もうリュックもパンパンだし、薄暗くなってきたし。そろそろ帰るか」
夜の森は危険だ。
本当は、薄暗くなる前に帰る予定だったが。
少し調子に乗ってしまった。
まあ、大きな問題はないはず。
と思ったがーー。
「ぎいぃっ!」
ゴブリンが俺の正面に姿を表す。
「ゴブリンか。1匹くらい、俺の敵ではない」
俺は剣を油断なく構える。
そして、魔法の詠唱を開始する。
「揺蕩う炎の精霊よ。契約によりて我が指示に従え。火の弾丸を生み出し、我が眼前の敵を滅せよ。ファイアーバレット!」
炎の弾がゴブリンを襲う。
「ぎゃうっ!」
ゴブリンに炎の弾が直撃し、やつはあっさりと息絶えた。
「ふん。所詮は低級だし、この程度だろうな」
俺は討伐証明部位を剥ぎ取るため、ゴブリンの死体に近づく。
少し油断していたのだろうか。
「ぎゃいぃっ!」
「う……!?」
魔物の声とともに、俺の体に衝撃が走る。
俺はバランスを崩し、よろける。
「な、何だ!?」
俺は元いた場所から少し距離を取り、周囲を見て状況を確認する。
「ぎゃおっ!」
「ぎいいぃっ!」
複数体のゴブリンだ。
正面、左右、そして後方。
どうやら、囲まれてしまっているようだ。
最初の1体だけではなかったということか。
「くっ。これはマズイ……」
1対1ならともかく、ゴブリンの群れを俺1人で相手にするのは厳しい。
それに、先ほど攻撃を受けたダメージもある。
肩辺りがズキズキと痛む。
骨は折れていないだろうが、そこそこの内出血はしていそうだ。
「なんとか突破をーー」
俺は思考を巡らせる。
しかし、ゴブリンたちは悠長に待ってはくれなかった。
「ぎゃおっ!」
「ぎいいゃっ!」
ゴブリンたちが棍棒で殴りかかってくる。
多勢に無勢だ。
逃亡や反撃はおろか、防ぎ切ることすら厳しい。
「ぐ……。が……」
俺は四方をゴブリンに囲まれ、タコ殴りにされる。
突破口がない。
俺は、ここまでなのだろうか。
自分の力を過信して、冒険者として父上を見返そうとしたのが間違いだったのか。
無難に街で働いていれば……。
あるいは、出発前に話しかけてきた先輩冒険者たちの言うことを聞いておけば……。
絡んでくるような雰囲気ではあったが、実際には単なるアドバイスをしようとしてくれていた可能性もある。
もしくは、白銀草を規定量採取した時点でさっさと撤収していれば……。
「たらればを言っても仕方がない。俺は生きて……帰るんだ……」
殴られすぎて、意識が朦朧としてきた。
何かないか、何か……。
「ダーリン、しっかりして! ……ポケットの中の黒毒草を飲むのよ!」
何やら声が聞こえる。
昨晩の就寝中、冒険者ギルドでチンピラに絡まれているとき、そして先ほどの採集中にも聞いたような気がする。
少女の声だ。
「幻聴か……。わざわざ自分で毒を飲んでも仕方がないだろうに……」
かなり厳しい状況だとはいえ、自殺はしたくない……。
「いいから飲むのよ! 私を信じて!」
「ええい! こうなりゃ一か八かだ!」
俺はゴブリンたちにタコ殴りにされながらも、なんとかポケットから黒毒草を取り出して自分の口に放り込む。
苦い。
マズイ。
舌がピリピリする。
黒毒草は、毒を持っているのだ。
その上、瘴気を呼び寄せる効果を持つ。
人体にとって、百害あって一利なしとはこのことだ。
「うう……。やっぱり、早まったか……? 黒毒草の毒がこれほど強いとは……」
もはや体もろくに動かせない。
毒がさっそく回り始めたようだ。
ゴブリンから受けているダメージもあるだろう。
俺が全てを諦め、目を閉じようとしたときーー。
「うふふふふ。ついに、私のお出ましよ! 瘴気をたっぷりもらって、怨霊サリーナちゃん、華麗に参上!」
何やらハイテンションな少女の声が聞こえる。
声だけでわかる。
かわいい少女だ。
この期に及んで、また幻聴か。
俺の脳は、ずいぶんとお花畑だったらしい。
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