現実では起こり得ない、非現実的な物語の主人公になってしまった件について

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そんなこんなで約束の時間10分前に待ち合わせ場所に着いた僕は、それでも大人しくその場で待つことにした。なぜなら、僕は相手がどんな人か全く聞かされていなかったからだ。 まあ、45才のおじさんと言うのは知ってるけどねっ。 あっちは姉の写真を持っているし、今の僕は姉に瓜二つなのですぐに分かるだろう。 僕は女としては背が高すぎるけど、実は姉は僕より背が高く、しかもヒールを履いたらそこら辺の男の人よりも高い。 決して僕が低い訳じゃないからねっ。 と言いつつも、まだ背が伸びることを期待している今日この頃。 だけど、今だけはもう少し背が低くても良かったかも・・・と思ってしまう。なぜなら、とても注目を浴びているからだ。 これでも僕は今日、すっ転ばないようにヒールの低い靴を履いている。本当の姉はもっと長身でもっと高いヒールの靴を履いているので、今よりももっと大きいはずだ。 姉さん、いつもこんなに人に見られてるんだ・・・。 僕なら耐えられないけど、あの気の強い姉ならきっと鼻で笑って堂々と立ってるんだろうな・・・。 そんなことを思いながら待っていると、隣に誰かが立った気配がした。 何気なくその人を見ると、僕よりも頭一個分は背の高い、すごい美形の男性が立ってこちらを見ていた。 すごく、かっこいい人・・・。 と一瞬見とれていたら、その手には姉の写真が・・・。 え? この人なの? 僕は慌ててその人に向き直り、頭を下げた。 「はじめまして。今日はよろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしく。・・・今日はすみません、予定を変更してしまって」 「いえ、お忙しいのに却って申し訳ないです。・・・あの、すぐに分かりました?」 「ええ、写真の通りの人だったし、背の高い女性だと聞いていたので・・・本当に背が高いので少々びっくりしました」 本物はもっと高いですよ。 そう思いながら、僕は彼のエスコートで予約しているというお店に向かった。 それにしてもびっくりした。 まさかこんなにイケメンな人だとは思わなかった。 だって、45才独身。親が心配するほど浮いた話がないなんて、どんなモテないおじさんかと思うよね。 僕は勝手に禿げてお腹の出たおじさんだと思っていた。それかオタクな人。 なのに実際は、背が高くてスマートで、センスのいいスーツを着た超イケメン。おまけにお家も超お金持ち。 なんでこんなハイスペックな人が親に心配されて、お見合いの席を設けられてるんだろう?黙っていても女の人が群がってきそうなのに・・・。 しかも、予約してあるお店は超ハイセンスなフレンチのレストランだった。 高層ホテルの上層階にあるこのレストランは夜景が素晴らしい。そして通された席は、当然のように夜景が一望できる窓際のテーブル席だった。 すごいレストラン・・・。 どうしよう、緊張してきた。 テーブルマナーは一応身についてはいるけど、こんなところ初めて来た。 メニューを渡されるけど、緊張で選べない。 どうしよう・・・。 すると、すっとメニューを彼に取られてしまった。 「ここは僕のオススメの店なので、オーダーは僕に任せてください。嫌いなものや食べられないものはありますか?」 「・・・いいえ、特にはありません」 その答えににっこりと笑って頷くと、ギャルソンに次々とオーダーしていく。 僕が困ってたの分かったのかな?なのに全然嫌味なくフォローしてくれた。しかもやり方がスマートだ。 なんだかさっきとは違う意味でドキドキしてきた。 そうして料理のオーダーを終えると、彼は次にワインリストを開いた。そこでワインを二つ頼んだのを聞いて、僕は慌てて声を上げた。 「あ、あの、ぼ・・・私、お酒飲めないので、ワインは頼まないでください」 そんな僕に少し微笑んで、だけどそのままオーダーしてしまった。でもペリエを追加してくれてたけど・・・。 「飲まなくてもいいので、乾杯だけ付き合ってください」 困り顔の僕に、彼はそう微笑んだ。 そうだよね。姉は成人してるものね。その辺は大人の嗜みで、素直に了承しなくちゃね。 「じゃあ。乾杯だけ・・・」 僕も笑ってそう答えた。 ここで失敗する訳にはいかないのだ。姉の代わりに今日を無事に乗りきって、後日お断りを入れるのだ。でないと、うちは倒産して僕は大学に行けなくなる。 その後お互い始終笑顔で会話をしながら料理を頂いたけど、あまりに高級すぎたのと、失敗してはいけないというプレッシャーで味が全然分からなかった。 とりあえず今のところ粗相はしてない、はず・・・。 と、少し安心したのがいけなかったのか、本当に乾杯の時しか手にしなかったワインをペリエと間違えて飲んでしまったのだ。
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