4136人が本棚に入れています
本棚に追加
家の前に自転車を止めると、隣に住む大家の林がちょうど出てきた。
身よりもなくなったいま、未央は大家ととても親しくしていた。お互い独り暮らしなので、おかずを作りすぎた時にはおすそ分けもよくする仲だ。
「大家さんこんばんは。きょうは暑かったですね」
大家は、元気いっぱいの83歳。公園での太極拳が毎朝の日課だ。早くに夫を亡くしていて、子どもはいない。以前より耳が遠くなったが、まだまだ若い。
「そうね、きょうはずっと家にこもってたのよ。時間があったから寒天つくったんだけど、食べる?」
「わーい! ありがとうございます。いただきます」
寒天の入ったタッパーをありがたく頂戴した。自分の部屋の冷蔵庫からおみやげにもらった大きめのゼリーをふたつとってきて、大家に渡す。
「大家さん、これどうぞ。もらいものですけど」
「いいのよ、私はもらってくれれば嬉しいんだから」
「いつもお世話になってますので」
ガシャン──通りの向こうから自転車に乗った亮介が帰ってきた。
「おかえりなさい、郡司くん」
未央は亮介に笑顔を向けた。亮介はただいまと小さく言うとさっさと自分の部屋に行ってしまった。さっきとはずいぶん違うそっけない様子が気になったが、大家にあいさつして、部屋へと戻った。
最初のコメントを投稿しよう!