女官の花道を舗装するものは

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女官の花道を舗装するものは

 時は流れ…… 孤独姫は幼き少女から、立派な淑女へと成長していた。幼き時よりの美しさにも磨きがかかり、三千人の女官の中でも他の追随を許さない程である。 女官たちは後宮内にある女大学に通い「礼儀作法」「法律」「学問」「料理」「房中術」などをしっかりと学び、皇帝の妻である「内官(妃妾)」を目指し、この中でも最上位の「貴妃」を目指すのが彼女たちの最終目標となっている。  孤独姫は女大学を首席で卒業し「内官」の末席に入ることが決まっていた。女大学にて教養を深めていくうちにこの唐の国は、宦官の側近政治と一部の内官の民を民とも思わない圧政と贅沢三昧によって腐敗に腐敗を重ねていることに気がついてしまった。無論、そのことは後宮どころか宮廷内にいれば下働きの子供でも分かること、民の上に立つ施政者の志を持つものがそれを指摘し、諌めにかかればどうなるか…… 酒の詰まった壺に放り込まれ、死ぬまで放置されてしまう。狭い壺に閉じ込められた閉塞感は皮膚から染み込む酒のせいですっかりと消え去る、そこから頭に酒が回り、基本は無表情のままで、時折大笑いをすると言う。宦官はそれを見てケラケラと嘲笑うことを一つの娯楽としていた。孤独姫も「面白い者(物)がある」として宦官と共に壺を見ることがあったのだが、僅かな笑いすらも出ず、ただただ嫌悪感を覚えるのみであった。宦官は真顔の孤独姫を見て、ケラケラと笑いながら申し訳無さそうな顔をした。 「おやおや、彩りが足りませぬでしたかな?」と、言いながら宦官は部屋の隅に飾られていた花を一輪摘み、壺の口の中にそっと生けた。壺の口より出ていた女官の頭が花で彩られる。 壺にされた女官であるが、皇帝の母親である皇太后にお茶を入れる際に、一滴手の甲にお茶が撥ねた罰でこうされてしまったのである。この女官は孤独姫の女大学の後輩で妹のように可愛がっていた者。妹のように可愛がっていた者を壺にされたのを目に焼き付けさせられた孤独姫の心境たるや…… 尚、皇帝の寵愛を受けた女官が内官の嫉妬を受けて壺にされることも多い、今回の件は皇太后の虫の居所が悪かっただけの「不運」からなるものである。  更に別の日、孤独姫は皇太后に呼び出され一緒に(かわや)へと行くことになった。 この時代の(かわや)は糞尿の類を豚に処理させるもので、別名を「豚便所」と言う。 皇太后は孤独姫を豚便所の真下へと連れて行き、一匹の「豚」を指差した。 「これ、孤独姫や。新しい豚が入ってきたのだ、顔を見ておやり」 孤独姫は鼻を指で塞ぎながらその豚の顔を眺めた。そこにあったのは見知った顔、女大学で姉のように慕っていた先輩、蓮翠姫(れんすいひめ)だった。その先輩は孤独姫より先に女大学を卒業し、内官になったのになぜにこんなところに! 孤独姫は蓮翠姫の元に駆け寄ろうとするが、皇太后に手を捕まれ止められてしまう。
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