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「あ、あれは……」
「豚」
「え?」
「豚だと言っておろうが」
「あれはどうみても」
「とある女官の話をしよう。我が息子である皇帝陛下の遠征をいいことに長安警備の守護隊長と繋がりおった、盛りのついた豚よのう?」
その先はどうなるか考えてはならない…… 孤独姫は目を背けてしまった。
「女官と言うのは皇帝陛下の子を宿すことのみが唯一の仕事。女大学で学ぶことも『房中術』で皇帝陛下を悦ばせること以外はほぼ必要がない。姫としての権威を作るための単なる飾りみたいなもの」
「……」
「ところが皇帝陛下の不在をいいことに学んだ『房中術』でどこの馬の骨とも分からぬ男を悦ばせおった。これは皇帝陛下に仕える女官としてはあるまじきことよの。よう覚えておくのだな…… ああなりたくないのならばな」
皇太后は高笑いをしながら豚便所を後にした。孤独姫がそこで呆然としていると、豚が近づいてきた。鼻が釣り上げられ、口も聞けずに「ぶひー ぶひー」と豚のような泣き声しか出すことが出来ない……
「ああ…… 蓮姉さま…… 何という……」
これは皇太后からの「密通することなかれ」と言う劇薬も同然の警告だった。
皇太后は孤独姫の外見のみを評価しており、是非とも我が息子の正妃とし、交わった血を未来永劫繋げて行きたいと考えていた。言わば、期待の現れである。
だが、その期待の現れも非人道的行為を見せつけられた孤独姫には全く伝わらず、恐怖を煽ることにしかならなかった。
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