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「それで、万象老師の歳はいくつなのだ?」
その答えは決まっていた。幼少期より何度も聞いていることだが、毎回誤魔化されてしまう。
「ふふふ」
そう、冷笑で誤魔化すのだ。宮廷内にいる者全員が万象に年齢を聞くのだが、万象は一度たりともその質問に答えたことはない。女官・宦官ならともかく、皇帝でさえもその態度を変えないのである。それこそ皇帝に死刑にされてもおかしくない程の所業であるが、何故か許されているのは宮廷内で女官達が噂する七不思議の一つに数えられている。
「まぁよい」
万象が例え何であろうとこの恋心は変わらない。多分であるが、万象は仙人か神か何かの類であると孤独姫は思っていた。そうでもなければ日本人であるのに女大学の教官を担当することなぞありえない。科挙を突破する天才と称される者でさえもここまでの男はいない。人外の所業であると結論付けていたのである。
つい先程まで死ぬ決意を固めていて、死を覚悟していたのに、こうして助けられたことで決意が揺らいでしまった。万象が妾を助けてくれたのは女大学の教官として義務に過ぎないことは分かっている。しかし、それにも関わらずに嬉しいことに変わりはない。孤独姫はこれからも万象と共にいたいし、出来ればその側に寄り添って生きていきたいとさえ考えていた。
しかし、女官…… それも「内官」の身となる自分には許されぬこと。この恋心は未来永劫仕舞っておかねばならないと胸を痛めるのであった。先程、死を決意したのも「万象と結ばれぬなら」と言う気持ちがなかったわけでもない。
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