栄華の始まりは終焉の始まりでもある

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「妾のお慕いする気持ちが伝わらぬならば仕方ない。そなたを壺に入れ、その気持ちを改めて伝えてくれる。なぁに、壺は妾の部屋に置く。何日でも何ヶ月でも何年でも愛を伝えてやるわ」 「ふふふ、そうなれば私は肌から飲んだ酒で頭がおかしくなりましょう。そんな状態で私の心を手に入れたとて、それは偽りですよ」 壺にすると脅しをかけても冷静さを崩さずにいつもの冷笑混じりの人を一段下にみた慇懃無礼を極めたような口調。やはり、他の男とは一味も二味も違う。孤独姫は万象に対する想いを更に深めるのであった。 「やれ! 多少痛い目に遭ってもらおう!」 二人の兵士は青竜刀を万象に向かって振り下ろした、両の手を肩口から切り落とす軌道である。万象は人差し指と中指で刃を摘み、受け止める。そしてそのまま力を入れて折り砕き、刃を兵士の足元に向かって投げた。刃は石畳に突き刺さり墓標のように屹立する。 「なっ!?」 兵士は石畳に刺さった刃に気を取られているうちに万象の正拳突きを鼻柱にくらい、瞬時に昏倒し、石畳に叩きつけられた。噴水のような鼻血が溢れるにも関わらず鼻を押さえさせずに気絶させる程の極めて強力な一撃である。 「き、貴様ァ!」 もう二人の兵士が追撃の青竜刀を振り下ろしてきた。万象が軽く二人を睨みつけると、二人は戦意を喪失し、青竜刀を石畳の上に落としてしまった。そして、尻尾を巻いて逃げ出した。 孤独姫がそれをみて深い溜息を吐く。 「我が長安城守備の兵の中で手練の四人だったのだがな…… やはりそなたには敵わぬか」 「私は彼らにも、器械武術を教えておりましたからね。太刀筋はよくわかっております」 「器械武術を広場で見ておるだけで覚えたと噂になっておったが、(まこと)であったか」 「三百年、広場で見ていれば阿呆でも少しは覚えるというものです」 「そなたが器械武術の教官であれば、皇帝(おっと)も戦争から帰ってくる回数も増えただろうに」 「……第四婦人とは言え、皇帝の妻。次に帰ってきた時はこれ以上の栄華は不要とお伝えくださいませ。闇雲に戦争(いくさ)を繰り返しても敵が増えるばかりですよ。皇帝とていつまでも戦えるわけでもありません。それに、薄布(ベェル)の向こうの人形では戦えません」 「し、知っておったのか」 「ええ、生気の無い影だけですからね。すぐに気が付きました」 やはりこの男は他とは違う。宮廷内の女官や宦官が誰も気が付いていないというのにこの男は…… 孤独姫は畏れを覚えながら隠し持っていた弩弓を万象に向かって構えた。 「いかないでおくれ! 妾がこんなにそなたを愛しておるというのに! なぜにその気持ちに答えてくれん!」
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