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乙女…… かつて橙蘭と呼ばれていた時の少女のような甲高い声と口調で孤独姫は懇願した。四妃の一角に食い込んでからは低いドスの入ったような声と蓮っ葉な口調で自分を誤魔化してきた。前者の口調こそが本来の孤独姫のあるべき姿である。
「……」
万象は橙蘭を思い出し、一瞬振り向くも、そこにあるのは後宮という蠱毒の壺の中で最後まで勝ち上がった猛毒を持つ蟲も同然となった孤独姫。孤高の存在となった姫君の傍にいることは許されない。万象は縮地を重ねに重ね、長らく世話になった長安城を後にするのであった。
孤独姫は万象を想い、石畳に尽きぬ涙を落としていた。どれだけ泣いたかもわからなくなる頃、遠征を終えた皇帝が大部隊を率いての凱旋帰国を果たしたのだった。
「おう、孤独姫ではないか。朕を迎えに来たのか」
孤独姫は涙を拭いながらスッと立ち上がり、くるりと踵を返しながら一言。
「いえ、一つの恋が終わったのでございます」
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