栄華の始まりは終焉の始まりでもある

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 孤独姫だが、長安城が攻められ燃え上がる中でも庭園の東屋(ガゼボ)にて、黄金茶を呷りながら戦況をじっと見守っていた。城を燃やす炎の上昇気流で蝶たちが逃げ出すのを見つめていると、そこに一人の男が踏み込んできた。 千象青年である。彼は青竜刀の切っ先を孤独姫の鼻先に突きつけながら尋ねた。 「悪逆の女王、孤独姫とお見受けする」 孤独姫はぐいと黄金茶を飲み干した。自らに刃を突きつけるのはかつての想い人の顔で気分が高鳴る。だが、冷静を装いながら立ち上がる。 「それがなにか」 「贅沢三昧による重税! 城内での数え切れぬ敵対者の粛清! 生かしてはおけぬ! 大人しく我が剣の露と消えるが良い!」 孤独姫は長年、水銀の混じった白粉(おしろい)を肌に塗ってきたことですっかり頭がおかしくなっていた。目の前にいる男も「本物」の万象だと思いこんでいる。 「万象殿、妾の元に戻ってきてくれたのであるか? 嬉しいぞえ」 孤独姫は千象青年に向かって蛇がにじり寄るようにくねくねとしながら近づいた。千象青年はそれを不気味がり後退し距離を取る。 「万象殿、久々の再会だと言うのに照れおってからに」 「何を言うか! 悪逆の女王めが!」 「そうか! 三度、妾を助けに来おったのか! 一度目は品定めの下衆男に襲われているところを! 二度目は全てに悲観し自殺したところを助けてくれおったな! 今でもあの一時(ひととき)は妾の中で夜空に輝く星のように輝いておる!」 「な、何を意味の分からぬことを! そのような覚えはない!」 孤独姫は庭園の塀を越えた。その真下では農民軍と宮廷の兵士が鎬を削り合っていた。 「分かった! 妾が自害するところを助け、表向きには自害したということにするのだな! さぁ! 妾が飛び降りたら前(二回目)と同じように優しく抱き留めるのじゃ!」 孤独姫はそのまま真下へと飛び降りた。その落ちゆく中、孤独姫は万象に優しく抱かれる妄想に包まれ満面の笑みを浮かべ、妄想の万象に語りかける。 「万象! ああ! 万象! やっと会えた! 今度こそはそなたとの子を宿そうぞ! そなたが万だから、その子は千ぞ! 妾の一番好きなのは万象! 二番目に好きなのは千象! 良い名であろう!」 二人は抱き合い回転しながら庭園真下の石畳へと落下していく…… 妄想の万象が優しい微笑みを見せた瞬間、孤独姫は石畳に叩きつけられ、落下の痛みを感じる間もなく絶命した。 石畳の上に倒れる孤独姫の表情は満面の笑みであった…… 想い人に会えたと言う幸せの笑みだったのだろうか。 千象青年は燃え上がる庭園の上から横たわる孤独姫の姿を見て涙を流した。そしてすぐに涙を拭い、宮廷内に残る残党の処理に入るのであった…… 今は昔、ここに終わるは一人のお姫様の燃え尽きた恋の物語。                            おわり
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