入宮、それは絶望の始まり。絶望の中にも光は差していた。

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入宮、それは絶望の始まり。絶望の中にも光は差していた。

 孤独姫は元々、唐に(りん)する小国「燈藤国(どとうこく)」の姫であった。当時の名前、幼名は橙蘭(とうらん)王と王女である優しい両親と多くの家臣に傅かわれ、蝶よ花よの生活を送っていた。そんなある日のこと、燈藤国は唐国皇帝が先陣を切る大部隊によって瞬く間に侵略されてしまった。王も兵士達も頑強に抵抗したものの、唐国の大部隊の力は強く、瞬く間に全滅。燈藤国の象徴である王宮も瞬く間に占拠されてしまい、唐のものとなり、燈藤国は朝貢国の一つへと成り下がってしまった。 橙蘭の父である王は捕縛され死刑。母は皇帝の女官になると宣言し死刑を免れたのだが、旧燈藤国家臣に「この恥知らずの阿婆擦れめが!」と凶刃を受けて死亡、その家臣も王へ忠義を尽くすために自刃。 王族の中で一人生き残った橙蘭は「戦利品」として長安へと連れて行かれるのであった……   燈藤国陥落後、燈藤国の女達は長安へと連れて行かれ、品定めが行われる。品定めの結果、良民として唐国臣民になる者もいれば、賤民として奴隷扱いになる者もいた。橙蘭は王の娘であることと、幼き身にも関わらず周りを魅了する美しさを持っていたことから皇帝直々に宮廷女官にされることが決まってしまった。 次は宮廷女官になる際の更なる品定めである。その品定めを行うのは皇帝の戦友で盟友(ポンヨウ)の火哲(ひてつ)、燈藤国侵略の際に百人の兵士を殺したことで百人隊長の称号を受けていた。 火哲は庭園に橙蘭の手を引き連れて行き、その全身を舐めるように見回した。その時の橙蘭、まだ十にも満たない歳ではあったが、四十を超え、愛人を三人抱える火哲の心を奪うには十分な美しさを持っていた。 馬油(まーゆ)で整えずともツヤツヤと黒光りする程に美しく靭やかな髪、選び抜かれた僅かに銀の濁りが入った黒真珠を思わせる黒い瞳、鼻も高く彫りの深い顔、極東の満州族のみの交わりでは生まれぬ美しい顔をしていたのだった。 「顔の彫りが深い、異国の血が入っておるな」 橙蘭は年齢に似合わない大人びた口調でその質問に答えた。蝶よ花よと育てられてはいたものの帝王学を受けているからこその口調である。 「母上が西の西の国、ぺるしあから輿入りをしたと聞く。母上はぺるしあの元王女! そのような国を侵略したそなたらに未来があると思うな!」 それを聞いた火哲はガハハと豪快に笑った。 「気の強い娘だ、気に入った。ぺるしあ? それがどうした? これでぺるしあに咎められると言うなら逆に攻め返してくれるわ!」 「な、何という野蛮な」 「フン、褒め言葉よ。しかし、気の強い割には美しいな…… 皇帝の女官として男日照りにするのは惜しい。我が愛人にならぬか?」
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