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この火哲、気に入った女がいれば手篭めにし、自分の女にしてきた野獣も同然の男。その魔の手が皇帝の愛人である宮廷女官に至ることも珍しくはない。手篭めにされた宮廷女官が火哲の子を宿し、皇帝不在故の現場判断で死刑にされた女官も少なくはない。
ちなみにだが、皇帝帰還と機会が合い、皇帝の子を宿した女官でさえも、他の女官の嫉妬や、宦官の意に沿わない子と言うだけで、讒言を流され火哲の子を宿したとされ現場判断で死刑にされることもある。
不条理な話だが、火哲は皇帝の戦友で盟友であるためにここまでの凶行を行っていても咎められることはない。
皇帝がそれを知っても「あいつ、またやったか…… しょうがないやつだ」と軽く流される始末である。
「だ、誰がっ! 我が国の民を無慈悲に殺した外道鬼畜などに!」
火哲は再びガハハと豪快に笑った。それから着ていた鎧を次々と脱ぎ始める。上着一枚になったところでやっと口を開いた。
「我が国? 今や我が唐国に忠誠を誓う朝貢国の一つに過ぎぬではないか。そんな国のことは忘れ、我と楽しくやろうではないか! 優しくしてやるぞ!」
火哲は力強く橙蘭の衣服の襟首を掴み、思い切り引いた。衣服の上着が剥がされ、庭園を吹く風に乗って舞う。
「な、何を!」
「服を着ておっては品定めも出来ぬではないか。さあさ、湯浴み前のように自分で脱いではくれぬか?」
「い、嫌です! このような無礼が許されるとでも!」
火哲は橙蘭の頬に一発の平手打ちを叩き込んだ。生まれて初めての痛みに橙蘭は戸惑うが、凛とした顔で火哲を睨みつける。
「何をするのです! 爸爸にも媽媽にも殴られたことがないのに!」
橙蘭は小国とは言え蝶よ花よと育てられた「宝」も同然の箱入り娘、誰にも殴られたことなぞあるわけがない。
「ハァン? もうこんなお姫様みたいなことは言うのはやめてもらおうか。親父もお袋も惨めに死んでるんだからよぉ! お前は単なる女だ! さぁ! 俺たちは一つの雄と雌になるのだ!」
庭園の中、橙蘭を追いかけ回す火哲。捕まれば「かぁますうとら」のような目に遭うのは間違いない。あのようなヒゲモジャで血と汗の臭いが混じったような人殺しの死臭のする男とあのようなことはしたくない。橙蘭は必死に逃げ回るが、所詮は子供、茂みの中に隠れているところを首根っこを押さえられ、ヒョイと持ち上げられてしまう。
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