庭園にて

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庭園にて

今は昔、ここに始まるは一人のお姫様の燃え焦がれる恋の物語。  東も東、極めて東の極東に群雄割拠の小国を纏め上げ、(いくさ)(いくさ)を重ね統一し、建国し栄華を極めし千代に栄えた王朝があった。 その名は「(とう)首都(みやこ)は長安、宮廷は我が世の春を迎え、広大な庭には百花繚乱の花々が咲き乱れ、同じく百花繚乱の美しさを持つ極彩色の蝶が舞い飛んでいた。 この美しい庭園の片隅、長安の都を一望出来る東屋(ガゼボ)にて一人の女官が佇んでいる。  仙髷(せんぜん)に髪型を整えられ、蒼穹を照らす太陽を思わせる黄金色の(かんざし)が挿され、仙髷(せんぜん)の黒髪が映え美しい。顔も水銀の混じった白粉(おしろい)で雪のように漂白され、頬紅(チィク)口紅(ルゥジュ)の紅色が対色となり、(かんばせ)も美しく、美の女神が顕現したようであった。身に纏いし衣服も庭園を乱舞する蝶のようにヒラヒラとしたもの、触り心地もツヤツヤサラサラとした(シルク)で蓬来山の天女が纏う羽衣を思わせた。  女官の名は孤独姫(こどくひめ)、他に並ぶ者がいない程の美しい(かんばせ)を持つことから皇帝に付けられた名前である。極東の大陸全土から集められた女、それも美しい姫たち、美姫(びき)が集まる長安の宮廷の中でも孤独姫は最高の美しさを持っていた。皇帝もこういった意味を込めて「孤独」と言う名前を与えたと思われるが、その真相は定かではない。 真相を聞こうにも、皇帝は野心が強く唐国の未来永劫の栄華を考え、領土の拡大を希求するがあまり隣接する国への侵略戦争に余念がなく、宮廷に戻ることは極稀のことで、聞くことは叶わない。  このように、宮廷は皇帝不在のようなもの。長安の都の内政は、孤独姫のような女官や、皇帝の側近である宦官のような奉仕の役割をするものに一任されていた。皇帝不在をいいことに女官や宦官は民からの税を貪り食らいの贅沢三昧。皇帝も進軍経路上の徴用で現有戦力を足すことで継戦を行う戦上手で長安からの支援・補給はほぼ必要ない故にこれが許されていたのであった。 孤独姫が東屋(ガゼボ)にて茶を啜っていると、一人の宦官が歩いてきた。孤独姫は宦官の顔を見た瞬間に美しい顔を僅かに歪ませた。男を辞め、女の腐ったような声の高い意味のわからぬ存在である宦官が嫌い故に見せた表情だった。宦官は拱手の構えをし、孤独姫の前に立った。 「何か」 「は、あの男の母国(ははぐに)東夷(あずまえびす)の使者に……」 孤独姫は袖の中より閉じた扇子を出し、宦官の頭を一叩きした。宦官の坊主頭に扇子の跡が綺麗についた。あいたたた、宦官は「この小娘が!」と言う不快感を隠しながら、そのまま俯いた。孤独姫は宦官に向かって烈火のように怒り、怒鳴りつける。
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