3人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日さ、千尋、デートだったんだよ」
鞄から取り出したハンカチで髪を絞りながら、絢が話始めた。
「髪も一緒に可愛くセットしてさ、待ち合わせにびしょびしょで行くわけにいかないっしょ」
「それで、嘘ついたのか」
「千尋は気にしいだからさ、帰る方向違うのに私が一緒に帰っても気にするし。私が傘持ってないなんて知ってたら、絶対先に帰ったりしないよ」
傘がゆらゆらと揺れた。右手に力を入れ直す。
少し悩んでから、昭仁は頭の中のことを口に出した。
「デートの相手、佐々木だろ」
「……やっぱり津田は知ってるよね」
だよねぇと続けて、絢が結んだ唇を無理やり横に引いた、ように昭仁には見えた。
今日、佐々木は部活もそこそこに駅に向かっている筈だった。
佐々木は周りの誰にも、自分の恋愛の話は滅多にしない。昭仁にも、デートなんだ、とひと言言っただけだ。
でもそれが本当に相手を大切にしている感じがして、昭仁もこの件については佐々木をからかったりはしない。
「2人を応援している私としてはね、そのデートのサポートをね、ちょっとしていた訳ですよ」
最初のコメントを投稿しよう!