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 1階に到着すると、一気に雨の音が大きくなった。遠くから雷の音も聞こえてきている。  昭仁とすれ違うことのなかった絢の姿は、まだ下駄箱にあった。先ほど千尋と話していた場所から、数歩しか移動していない。  湿気が滞留したその場所で、1人静かにスマートフォンを操作している。  その様子に勝手に戸惑う昭仁が綾の数メートル手前で二の足を踏んでいるうちに、絢はスマートフォンから目を上げた。  絢は顔を上げて外の様子を確認すると、先程まで見ていたスマートフォンを鞄の中にしまった。表情までは昭仁のところからは確認できない。そしてショルダータイプのスクールバッグをたすき掛けにすると、  何の前触れもなく、降りしきる雨の中へと駆け出して行った。  訳がわからなかった。昭仁が今、唯一わかることは、彼女は傘を持っていなかった。  慌てて靴を履き替え、傘を開いて後を追う。  外に出ると、想像よりも絢は遠くにいた。  ビニール傘の表面は、あっという間に雨に覆われた。走って追いつくつもりだったが、どうやら無理そうだ。  完全下校時刻を過ぎた、しかも雨の降りしきるロータリーに絢と昭仁以外の人は見当たらない。  昭仁は決意を固め、大きく息を吸った。 「岡島っ」  絢の肩がピクッと揺れ、その場に立ち止まる。そしてゆっくりとこちらを振り返った。  立ち止まった絢を、容赦なく雨が濡らす。着ている制服シャツも、指定の鞄も、その白い肌さえも、彼女の全てが雨を吸収する。  昭仁は早く、早くと水飛沫でスニーカーと制服のズボンの裾を濡らしながら走った。  ようやく絢の目の前に立つと、急いでその体を自分の持つ傘の中にそっと収めた。情けないが、息が少し切れていた。必死に呼吸を整える昭仁を余所に、 「津田だ、どうしたの?」  間抜けな声を上げてこちらを見上げる絢の前髪から、ポタリ、と雨粒が滴った。
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