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うどんが食べたい2
偏食な人間って
どうして
見捨てがたいんだろう
【うどんがたべたい2】
「おやじさん結婚してくれないか」
増永は、至極真剣に言った。すると馴染みのうどん屋の店主は黙って、手を出した。
「…420円ね」
店主の顔は不機嫌に見えるが、ただ頑固なだけである。腕は二流だが、まあまあ、食っていける。増永は嫌ん、嫌だあん、と気持ち悪い頭の振り方をしながら箸をがじがじと噛んだ。
「よしじゃあ養子はどうだ!金ならある、この店に金のしゃちほこをつける位なら」
「悪いが金融屋の息子なんかいらねえよ、ほら早く金払って会社に戻んなっ」
「つれないなおやじさん、まだ一杯しか」
「あんたが顔に似合わない事言うからこっちはやりにくいんだよ!仕事の邪魔だ!」
「俺しか客はいないじゃないか」
「うるせえ、出禁にするぞ!」
喝、とばかりに大声を張り上げた亭主に増永はわはは、と笑った。
いつもの事だ。
増永は、偏食である。
こよなくうどんを愛し、放っとけばうわばみよろしくうどんを採取する男だ。腹を壊しても、壊しても懲りやしない。
特にこのうどん屋の味が大のお気に入りだ、最近じゃあ毎日、それでも四六時中食べたいんだ、そう言って養子にしてくれだの結婚しないかだのふざけた事を言いつのる。
亭主は渋い顔をして、全く…と言った。
「家で作りゃあいいじゃねえか、こんなもん小麦粉の塊だ、どれだって一緒だ」
「違うんだよ、全然違うよ。自分が作っちゃ駄目なのさ」
「じゃあ良い人にでも」
「俺にはうどんがあれば、なんにもいらないよ、ねえもう一杯」
おねだりするのは、
可愛い女が一番だ、
いかつい男がおねだりしたって…
「一杯だけな」
そう言いながら、
うどんで首を絞めてやろうか、と思った店主であった。
【うどんがたべたい2】
完
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