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うどんが食べたい1
おとうちゃんはうどんをふたたまたべます
さんにんかぞくで
おかあちゃんとおれとおとうちゃんです
おとうちゃんはうどんをふたたまだべます
さんたましかなくても
ふたたまたべます
だからおかあちゃんとおれは
はんぶんこします
どうしておとうちゃんだけふたたまたべられるのか
おかあちゃんにきくと
おとうちゃんはおとこのひとだからだそうです
おれもおとこだけど
こどもだからだそうです
おれはうどんがたべたい
はらいっぱい
どんぶりばちにたくさんの
うどんがたべたいです
【うどんがたべたい】
ずるり、と音を立ててうどんを啜った。
丼を持って、かき込みやすいように、手首のスナップをきかせて
ずるり、ずるりと啜る。
噛んでいるのか、噛んでいないのか自分でも解らない。舌を、口を、この細長い麺を胃に送る事だけに増永は神経を集中させる。
もう、なにも解らない。なにも考えられない。
ただ、食べる、食べる、食べる。口でうどんをちゅるちゅると流し込んでいる間に、箸でまた次のうどんを口に運ぶ。
増永は素うどんしか食べない。葱がかかっていて、七味があればなにも言う事はない。
あついうどんが好きだ、うわばみのようにいくらでもこの、この白い物体が腹に入っていくことを許してしまいそうになる。
増永は愛している、うどんが好きだ。好きで好きでたまらない。汗が浮かぶ、構わない。お前の為なら俺はどんなことでもするよと言いかねない。
ちゅる、と最後の一本が口に入った。悲しそうにもぐもぐと咀嚼しながら丼を見つめる。
濃い、真っ黒なうどんの汁。勢いよく丼に口をつけて一気に汁を飲み干した。
黙ってうどん屋の店主はカウンター越しに増永を無表情に見ている。常連客の、いいスーツを着た中年男が一心不乱にうどんをかき込む様はいつ見ても爽快だ。
愛が、うどんへの愛に満ち溢れている。
ごくごくごく、と喉がなる。そして、最後の水滴に別れを告げた。
ごっくん。
「ああ」
ため息が出た。
丼に温かさがまだ残っているが、それもすぐに冷めるだろう。
うどんと汁は全て増永の腹に入ってしまった。
「ああ」
残念そうに箸をしゃぶったが、味は残っていない。
「ああ」
カウンターに頭を乗せて悲しそうである。
「もう一杯」
「もう二杯目だろ。駄目だよ、あんたの部下に言われてんだ。あんたに二杯以上食わせるなってよう。」
「そんな事言うなよ、おやじさん。俺は客だぜ。」
「五杯も食って、腹を痛めたのはどこのどいつだい。不惑も過ぎてんのに無茶するなって。」
「ここのうどんがうまいんだ。」
「嘘つけ、うどんならなんだっていいんだろ、俺だって料理人のはしくれだ、自分のうどんがまずいの位解ってる。おかげで常連はお前さんくらいで後はいちげんさんばっかり。常連になる物好きはいねえよ。」
「お袋の味に似てるんだ。ちょっと不器用でさ、でもこの味が旨いんだよ。な、おやじさん」
「駄目駄目、とっとと金払って帰んな!後、こういうのもなんだけど、うどんばかり食うんじゃないよ。ちゃんと飯食ってるか。」
「たまには食べるさ。ああ、なんか食べた気がしないよ。俺だって男なんだから、二玉なんかじゃ足りないよ。もっと食べたいよ。」
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