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出版社を出た後は黒田さんとタクシーで横浜に向かった。隣の席の黒田さんはちょっと失礼しますと言ってから、どこかに電話し始める。
車窓から外を眺めると、夕方と夜の境目のような空が広がっていた。いつもだったら夕飯を作る時間帯だ。でも、一人分の夕飯なら、作らなくてもいいんだ。純ちゃんがいないから。
純ちゃん、上海でちゃんとご飯食べているかな。もう日本を発ってから三日経つのに電話くれないな。忙しいのかな。
「お待たせしました」
黒田さんの声に現実に引き戻された。
「それで話の続きなんですが」
スマホをしまいながら、黒田さんが私を見た。
「は、はい」
純ちゃんの事から望月先生に意識を戻した。今から望月先生の所に連れて行ってもらうのだ。しっかりしないと。
「基本的には先生の食事を作ったり、掃除をしたり、洗濯をしたりと、先生が執筆しやすいように家事をしてもらう事になります。実は先生の家でずっと働いてくれてた家政婦さんが腰を痛めて今入院してまして。新しい家政婦を探してる所ですが、中々先生と相性の合う方がいなくて」
先生はもしかしたら少し気難しい人なのかな。芸術家だもんね。多少はそういう所あるよね。ちょっとぐらい厳しくたって全然許容範囲。会えるだけで光栄なんだもん。
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