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「先生―! 良かった。お元気そうで」
先生の姿を見ると、黒田さんがほっとしたように表情を緩めた。
「先生が死にそうだと聞いて生きた心地がしませんでしたよ」
「大した事はない。虫垂炎だ」
「虫垂炎だったんですか」
黒田さんが意外そうにメタルフレームの奥の目を丸くした。
「いやー、私も5年前にやりましたよ。私の場合は薬で治るレベルだったんですけどね。先生は手術ですか?」
「黒田、嬉しそうに言うな。明日、腹腔鏡手術を受ける事になった。俺の場合は手術で取らないといけないらしい」
「黒田さん、すみません。あまりにも先生が苦しそうだったので、私、電話で大袈裟になってしまって」
「いえ。葉月さん、じゃなくて、水森さんがいてくれて良かったです。先生、お一人だったら病院に来るのが遅れてもっと悪くしていたかもしれません」
「そうだな。ガリ子がいてくれて助かったよ」
「私は当然の事をしただけですから。あの黒田さん、先生に付き添ってくれますか? 私、先生の着替えとか持って来ないといけないんで」
「ガリ子ダメだ!」
先生が勢いよくベッドから起き上がり、急に怖い顔をした。
「先生、痛むんですか?」
「いや、その、黒田よりガリ子に付き添って欲しいんだ。荷物は黒田が取りに行け。書斎に例のモノがあるから」
黒田さんがハッとしたような顔をした。
「はい。私が取って来ます。葉月さん、ではなく、水森さん、申し訳ないですが先生をお願い致します」
「でも、あの、私が行った方が」
黒田さんではきっと、先生の身の回りの物がどこにあるかわからない。
「黒田、早く行って来い」
「はい、すぐに」
「えっ、黒田さん、私がいきますよ」
黒田さんを追いかけようとしたら、点滴をしていない方の手が私の腕を掴んだ。
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