11話 先生の隠し事

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「今日子はここにいろ」 「先生、どうしたの? 先生の荷物を取りに行くだけですよ。黒田さんじゃ、わかりませんよ」 「そんな事はない。あいつは長年、俺の担当をしているから全部わかっている。黒田といるよりも今日子といたいんだ」  片腕で抱きしめられた。消毒薬と混じった甘い先生の匂いがする。抱きしめてくれる腕も、逞しい胸板も、鎌倉で抱かれた時と何一つ変わっていないはずなのに違和感を感じる。  この違和感は何?  なんでいつもの先生と違う気がするの?  心臓がざわざわとする。 「でも、先生、お洗濯物を取り込んだり、家の事もやって来ないと」 「洗濯物なんか今はどうでもいい!」  強い言い方にびっくりした。  驚いて先生を見つめると、「いや、その」と先生が気まずそうに呟いた。 「少しイラついているんだ。腹が痛くて」 「まだ痛みますか?」 「少しだけ」 「点滴の痛み止めが効いていないんですかね。看護師さん呼びましょうか」 「我慢できるから大丈夫だ。それより今日子、そばにいてくれ」  先生が普段より余裕のないように見えるのはお腹が痛いせい? それとも私が帰っては行けない理由があるの? 「先生、どうしたんですか? 何かおかしいですよ?」 「明日手術で不安なだけだ」  目が合うと、先生から逸らした。やっぱり普段と違う。  まさか、先生が私に隠し事?
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