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先生の家の前にタクシーが停まっていた。きっと黒田さんだ。
鍵は開いているから黒田さんが中にいるんだ。
二階の先生の書斎に黒田さんはいなかった。
床には文字が印刷された紙が散乱している。
倒れる直前に先生が読んでいた物のよう。
もしかして新作の小説?
一枚だけなら読んでもいいよね。
ああっ、この文体は先生の小説だ。しかも読んだ事のないやつ。やっぱりこれは新作なんだ。
望月かおるの新作がここにある。
全部読みたい。
紙を拾い集めようとした時、「葉月さん!」と呼ばれた。
黒田さんの声だ。
「あ、違った。水森さん。どうされたんですか?」
振り返ると右手にスマホを持ち、やや呼吸の乱れた黒田さんがいた。私がいる事に気づいて駆けつけて来たんだろか。
「先生の荷物を取りに来たんです。黒田さんでは全部わからないでしょう」
「助かります。では、寝室の方お願いできますか? 私は先生の仕事関係の道具をまとめますから」
「ええ、わかりました」
床に散らばっている原稿を拾い集めてから行こうとしたら、「それは私がやるので、すぐに寝室で用意して下さい」と言われた。
先生の新作、読みたかったのに残念。
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