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【Side 望月】
虫垂炎の手術が終わったら今日子に小説の事を打ち明けるつもりだった。
手術が終わり、麻酔から覚めるとそばにいたのは今日子ではなく真奈美だった。
「お兄ちゃん、体調はどう?」
「ああ、大丈夫だ。それよりガリ子は帰ったのか?」
手術前に今日子は俺の手を握り励ましてくれた。
「お兄ちゃんの手術が無事に終わったのを見届けてから帰ったよ。なんか今日子ちゃん用事があったみたい」
「そうか」
「可愛い妹が付き添いじゃ不満なの?」
「そんな事はないが」
「あっ、お兄ちゃんが珍しく焦ってる。今日子ちゃんがいなくて寂しいんでしょう? お兄ちゃんって結構、甘えん坊だものね」
真奈美がクスクスと笑った。
「病人の兄をからかうな」
「お兄ちゃん、今日子ちゃんの事が凄く好きなんだね。今日子ちゃんの名前を聞いただけで嬉しそうな顔するんだもの」
気持ちを言い当てられて照れくさい。
「俺の付き添いをしていて大丈夫なのか? 流星はどうした?」
「黒田さんといるから大丈夫よ」
真奈美に思わず笑みがこぼれた。
「何よ?」
「真奈美こそわかりやすい。黒田の名前を嬉しそうな顔で口にする奴がこの世にいるとはな」
まつ毛の長い大きな瞳が揺れた。
「からかわないでよ。そう言えば黒田さんが、新作の原稿受け取りましたって。それから、さすが望月かおるだ。これは傑作だって大絶賛してた」
ついに今日子をモデルに書いた小説が黒田の手に渡ったのか。もう世に出すしかない。今日子があの小説を読む前に本当の事を伝えなくては。
「真奈美、ガリ子は明日来るか?」
「多分。来るんじゃない」
明日話そう。謝罪をして、それから始まりは小説の為だったが、途中から本気で今日子を愛した事を伝えよう。
怒るだろうな。酷いと言って涙を浮かべた今日子の顔が想像できてしまう。しかし、俺の気持ちが本物だという事をわかってもらうまで話そう。
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