12話 契約終了

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 真奈美さんが帰ったあと、先生は心配そうな視線を私に向けた。 「風邪は大丈夫か?」  優しい言葉に胸が熱くなる。  この優しさは本物だと思いたい。  けど、違うんだ。 「はい。すっかり治りました」 「無理はするなよ」 「先生も無理しないで下さいよ」 「ああ、わかっている。今日子に心配かけるような事はしないよ。おいで」  水色のシャツに、グレーのスラックス姿の先生が両腕を広げた。    好きなんだもの。先生に求められたら拒めない。  吸い込まれるように先生の腕の中へ行くと抱きしめてくれる。  久しぶりの先生にドキドキする。 「今日子の匂いがする」  先生が私の首筋に鼻をあてる。 「汗くさいですよ。掃除していたから」 「いい匂いだよ」  くんくんと先生が私の匂いを嗅ぐ。  先生はどんな気持ちで私に触れているの? また小説のネタでも探しているの? まだ私に利用価値はあるの? 「今日子、嫌だったか?」  戸惑ったような先生の目と合った。  きっと私が笑っていなかったから、心配になったんだ。  こういう先生を見ると、先生の気持ちが嘘とは思えない。  私の事が本当に好きだって信じたくなる。 「先生、キスして」  すがるように抱き着いた。  嘘でもいい。今だけは甘えたい。 「今日子、好きだよ」  唇が重なった。  先生の言葉に心が掻きむしられる。  苦しくて、切なくて。  先生の言葉を信じたい。  けれど、信じちゃダメなんだ。  私は先生にとってがきく存在なんだから。  恋人でいたかったら、ちゃんと割り切らなくてはいけないんだ。
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