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9月28日。先生の新しいアシスタントが決まったと上原さんが連絡をくれた。私は新しい人の為に引き継ぎ書のようなものを作って、上原さんにメールで送った。
これで10月1日から先生が困る事はない。
新しい人が10月1日から来られない場合も考えて、一週間分のおかずを作って冷凍もした。
先生が一番困るのは食事だと言っていたから。
料理はできるけど、一人分の食事を作るのは面倒くさいらしい。
アシスタントとしても思い残す事がないように、掃除もしっかりとやった。
冷蔵庫の整理をして、キッチンを磨いて、ダイニングルームを掃除して、リビングを掃除して、先生がよく出ているサンルームも綺麗に掃除した。
それから先生の寝室とお風呂も掃除した。
書斎も掃除したかったけど、先生がお仕事中だったから簡単にしか出来なかった。
「今日子」
リビングの掃除をしていたら、サンルームにいる先生に呼ばれた。
先生は藤の長いすに腰かけ、まだ火をつけていない煙草を一本持っていた。
退院したばかりだから、さすがに見逃せない。
「先生、禁煙してるんじゃないんですか?」
「ああ、禁煙中だ」
「何を持っているんですか?」
先生が苦笑いを浮かべ、私に持っていた煙草と、煙草の箱を観念したように差し出した。
「素直でよろしい」
目が合うと先生と一緒にクスクスと笑う。
こういう瞬間、先生に愛されているんじゃないかと勘違いしそうになる。
「それで何ですか? お茶でもお持ちしますか?」
先生の顔から笑みが消えた。
「お茶はいい。実は今日子に話があってな」
「はい」
「あのな」
「はい」
「いや、何でもない」
先生は気まずそうにサンルームから立ち去った。
退院してから、時々、先生は何かを言いたそうにしている。
小説の事を言おうとしているんだろうか。
次の作品の為に新しいヒロインが必要になるから、今日子は用済みになったんだよ、とでも、言いたいのだろうか。
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