12話 契約終了

8/11
前へ
/305ページ
次へ
 9月30日の夜。  今夜が先生と過ごす最後の夜。  抜糸が済んだ先生は私を寝室のベッドに連れて行った。  先生から誘って来たのは退院後初めてだった。  ずっと今日子を抱きたかったと言われて、泣きそうになった。嘘だとわかっていても、物凄い熱量を感じて先生の言葉が胸に響いた。  今夜は先生の言葉が本物のように思えた。  ベッドの上で絡み、パジャマはあっという間に脱がされ、肌と肌がぶつかった。  いつも優しい先生にしては珍しく乱暴な抱き方だった。  乱暴というのは少し違うのかも。余裕がないんだ。いつもどんな時も余裕があったように見えた先生が、今夜は全く余裕がないように見える。  必死にしがみつくような、そんな抱き方で私を求めてくる。  先生はずっと熱い声で、私を好きだと言い続けた。  これは本当の愛じゃない。  先生が愛しているのは私じゃない。  わかっているのに、私も好きだと言い続けた。  偽りの愛でも溺れていたかった。
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!

644人が本棚に入れています
本棚に追加