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午後4時55分。
神田神保町の集学館の二十階建てのビルの前で足を止め、立派なガラス張りのビルを見上げた。
集学館と言えば創業200年になる日本を代表する出版社で、少年少女漫画雑誌、ファッション誌などでヒット雑誌を多く出す一方で、小説にも力が入っている所だ。
昭和元年から集学館で年に一度行われてきた集学館文芸大賞は毎回テレビのニュースになる程注目され、その賞を取った作家は必ず売れっ子の作家になった。私の敬愛する望月かおる先生も集学館文芸大賞を取った作家さんだ。
結婚前に何度か望月かおる先生に会えるかもしれないと、出版社前をうろうろした事があったけど、あの時はさすがに入る勇気がなくて、自動ドアを越える事はできなかった。でも、今回は面接という正当な理由がある。
背筋を正し、ショルダーバッグをかけ直してから自動ドアの前に立った。
よし。いざ勝負。
パンプスを履いた右足を一歩踏み出すと自動ドアが勢いよく開く。それは私の運命を変えるドアのよう。先に進むのが怖い。でも、臆病な自分を少しでも変えたい。どうか幸せな運命が待っていてくれますように。そう願いながら思い切ってビルの中に入った。
案内された応接室は高級感ある焦げ茶色の家具で統一されていて威圧感が半端ない。革張りのソファに身を沈めながら緊張でお腹が痛くなってくる。今なら逃げてもいいかな、なんて、また弱気になる。
作品のほとんどが映画化ドラマ化され、本を読まない人でも名前だけは知られている超有名作家の望月かるお先生のアシスタントに応募してしまうなんて、本当に思い切った事をしてしまった。
勢いでここまで来たけど、ただの主婦の私に望月先生のアシスタントなんて勤まるんだろうか。なんか、とんでもない事をしちゃったかも。
とりあえず気を落ち着ける為、出されたコーヒーに口をつけた。普段口にするものよりも苦い。うげっと思わず眉を顰める。そのタイミングでドアが開いた。
「お待たせしました」
バタバタと忙しそうに小太りの男性が入って来た。
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