1話 憧れの先生は……

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 急に緊張してきた。家にピアノはあるけど仕事を辞めてから大してピアノを弾いていない。どうしよう。先生を満足させるレベルの演奏ができるだろうか。手の平がじっとりと汗で濡れて来た。 「大丈夫ですよ。葉月さんは音大出てるじゃないですかー」 「いやーでも、何も準備はしてこなかったので」 「心配しないで下さい。私は何があってもあなたで押します。だいたい望月先生は厳しいんですよ。音大まで出ていてピアノ講師をしてた方なんですから、もう、文句は言わせません!」  黒田さんが意を決したように私を見る。 「とりあえず、契約書にサインして下さい」  背広の内ポケットから折りたたまれていた書類とペンを黒田さんが取り出して、私の前に置いた。 「まだ望月先生の前でピアノ弾いてないのにいいんですか?」 「大丈夫です」と黒田さんは言い切った。
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