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『泥棒神社』の中には何もなかった。
それでも屋根があり床がある。
夕立を避けることができる。
ありがたい。
「何にもないな。広くてありがたいが。どういうことだろう?何もかも泥棒に盗まれたのだろうか?」
俺が不思議に思っていると
「ここはワシが建てた神社だ。ワシが死んだら、ここの神様になる。まだ死んでないから何もないんだ。」
とオヤジは笑った。
とりあえず持っていたタオルでオヤジの体を拭いた。
オヤジは目を細めて嬉しそうに俺を見ている。
俺は、オヤジに尋ねた。
「どうして困っている若者たちに金をバラ撒く気になった? 閻魔大王から天国への切符を盗み取ろうと思っているのか?」
オヤジの目に一瞬ギラリと鋭い光が走る。
「ワシは泥棒の道を極めたいのじゃ。ワシに盗めないものはない。その気になればどんなものでも鮮やかな手口で盗み取ることができる。だが、そんなワシにも、どうしても盗めないものがあるんじゃ。」
オヤジは急に震え出した。
雨に濡れたせいで体温が奪われたのか、それとも別の理由か。
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