闇催し

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しばらくの間船上生活が続き、数日後、フェリオットとその母親たちは別の国で降ろされることになった。 元々そういう話であったし、国からかなり離れたため恐らく安全なためだ。 港町はのどかな雰囲気で人口もそう多くなさそうに見える。  「着いたぞ」 「本当にありがとうございます」 「別にいいって。 早く全員を降りさせろ」 「はい」 フェリオットは皆無事降りれるよう誘導している。 そんな彼を船の上から眺めているとバーズが隣へとやってきた。 「最後にアイツのところへ行ってきたらどうだ? もちろん、陸地に残る選択肢はねぇがな」 「・・・はい」 ―――最後、か・・・。 ―――もうフェレとは会うことはないのかな。 バーズにそう言われ船を降りた。 「ミーシャ!」 近付くミーシャに気付くとフェリオットは出迎えてくれた。 「本当にごめん。 ・・・ミーシャを巻き添えにしようとして」 もうその時のことには自分の感情に折り合いを付けている。 あの凄惨なシーンはまだ脳裏に焼き付いて消えてはいないのだ。 「もうそれは気にしていないから」 「でもこればかりは消し去ることのできない事実だし」 「あの時に私を助けようとしてくれたから十分だよ」 それはミーシャがバーズたちと共に城へと侵入し、一人で兵士を陽動していた時のことだ。 兵士に偽物の姫だと勘付かれ殺されそうになったことがある。 バーズは知らないことであるが、距離を取って誘導していたためアクシデントが起こっていたのだ。   ―――その時にフェレが私だと気付いて助けにきてくれた。 ―――その時の恩は忘れていない。 直接的に兵士を倒したのはその後にやってきた男バーズの手下たちだった。 だが兵士の不意打ちを受けそうになった時にフェリオットが庇ってくれたのだ。 そして、彼にそのことを秘密にしておくよう言われた。 ミーシャが思うに贖罪のつもりだったのではないかと思う。 「ありがとう」 「ううん。 ・・・それより、その怪我は大丈夫なの?」  フェリオットは手も足もまだ包帯が巻かれており痛々しかった。 「大丈夫だよ。 手当もしてくれてありがとう。 それよりミーシャも頑張ってね」 「・・・うん。 もう一人じゃないから大丈夫。 フェレも・・・。 そう言えば、貴方の名前ってフェレじゃなかったのよね」 「あはは、ごめんね? 流石に王子としての名前は名乗れなくて、咄嗟に偽名を考えたんだけど後から思えば微妙だった」 「仕方なかったと思う。 でも、お母さんからもらった名前を大切にしてあげて」 フェリオットはその言葉に小さく微笑むとバーズへ視線を向けた。 「ここまで運んでくれたお礼なんですけど」 フェリオットはバーズに大金の入った袋を差し出した。 ミーシャから見てもかなりの大金のように思える。 「あぁ、金ならたんまりともらうぜ」 「もちろんです。 ただこれが全財産でこれ以上となると・・・」 バーズはフェリオットが持つ袋に手を突っ込むと一枚の金貨を取り出し笑った。 「この一番高価な一枚をもらっておくわ。 あとはここでの新しい生活にでも回しておけや」 「・・・え、でも、中の金貨は全て同じもので」 「思えばお前のおかげで計画は上手くいった可能性もある。 金目のものは十分手に入った。 それに」  バーズはミーシャの肩を抱く。 「この女。 ミーシャも手に入ったからな」 それを見て微笑ましそうにフェリオットは言った。 「・・・ありがとうございます」 「頑張れよ」  フェリオットは見送られながらこの場を去っていった。 バーズもフェリオットの姿が見えなくなると船へと戻っていく。 ミーシャはバーズの命令で女盗賊になることが決まっていた。   ―――これからが大変だけど、実家でやってきた家事スキルを活かしてそこから役に立とう。 そう思っていた。 「私の新しい人生はここから始まるのね」 呟くと背後から声がした。 「おーい、ミーシャ! もう出るぞー」 「はーい!」 「腹が減った。 早速何か作ってくれ」 「分かりました」 「俺たち盗賊の食欲は馬鹿にならないからな? 人数の三倍は計算に入れておけよ」  この数日は母たちに助けられていたが今日からは一人になる。 ミーシャは腕まくりをして船へと戻っていくのだった。                               -END-
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