闇催し

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闇催し

ミーシャは十六歳になったとほぼ同時に奴隷として売られた。 ―――理由は私が弟よりも高い値が付いたというだけ。 当然、そんな理由は受け入れられるわけがなかった。 だが子供であるミーシャに拒否権はなく、反論することさえ許されない。 『本当に申し訳ない。 ・・・でもこれは、弟たちを守るためでもあるから』  そんな綺麗ごとを吐いた両親が反吐が出るくらいに嫌だった。 いっそのこと開き直ってくれた方がよかった。 ―――知人に騙されて借金を負わされたせいだって聞いた。 ―――でもそれは、自分たちの不注意のせい。 ミーシャは親が姉弟全員の値段を奴隷商に聞いていたのを知っている。 つまりそれは誰でもよかったということだ。 ―――ほら、どうせ結局は自分たちのためでしょう? この先弟たちも奴隷として売られてしまう可能性はあった。 しかしミーシャに人の心配をする余裕はなかった。 その日初めて自宅以外の場所で夜を過ごし、奴隷商たちが楽しそうに話しているのを聞いてしまった。 『上物を安値で買いたたくことができた』 それが何を意味するのか分からないが、分かっているのは自分は更に別の人間に売られていくということ。 どうやら他国の奴隷オークションに出されるようで、その先に何が待っているのか奴隷商ですら分からないらしい。 『君たちには外国へ行ってもらうよ』 ミーシャの他にも奴隷として売られた子たちがいた。 親に捨てられたからか、まるで死人のような眼をしていた。 大きな船に押し込めるよう乗せられ、海を渡りどこか知らない国へと連れていかれる。 首輪を付けられ番号も付けられた。 ―――名前はもう不要、か・・・。 買われた先で新たに名付けられるらしい。 ただ奴隷商の奴隷は商品であるため丁重に扱われたことだけが救いだ。 ―――今までの暮らしより余程いい暮らしって皮肉ね。 だがそれも今の間だけ。 買い手次第ではいい待遇も期待できるらしいが、それは稀なケースだ。 寝食だけは不足なく与えられた船室での移動を終え、辿り着いた国は元居た場所よりも随分と豊かな国だった。   ―――・・・とても素敵な国。 更にそこでは何か特別な日なのか祭りが行われていた。 国中が賑やかで、言葉を失ったように喋られなかった奴隷の子もその時だけは顔を上げて眺めていたくらいだ。 ―――こんなに素敵な国なのに、どうしてここで闇オークションが行われるの?  今回ここで売られるのは若い男女で五十名程。 祭りの会場からは少し離れた人目に付かないような場所だ。 その建物の裏手から回って、中へと入ることになる。 皆縄で手を繋がれたまま大きくて暗い建物へと入っていくのは、まるで死刑台へと連れていかれるように思えた。 「ここに並んでいろ。 大人しくな」  そう言うと取り締まっていた男は出ていった。 入れ違うように歳が近そうな若い少年が入ってくる。 「今から札を貼っていきますね」 陽気な声が場違いに思え、それが逆に怖かった。 ステージ裏で番号の付いた札を胸元に貼られた。 少年は一人一人に丁寧に札を付けていき満足そうに微笑んだ。 ―――こんなに若い子でもここで働くんだ・・・。 ―――何か事情でもあるのかな? 少年は札を張り終えた後、何故かミーシャの目の前まで来ると優しく笑った。 「綺麗ですね」 「・・・」  ただの挨拶だと思うが素直に褒められれば嬉しくないはずがない。 とはいえ、あまり過度に反応するのもどうかと思い無言で少年を見送った。 ―――何かイメージと違う・・・。 ―――闇オークションって、もっとこう・・・。 少年が貼り終えた札をしばらく眺めていると、先程の男の声が聞こえてきた。 それに反応すると少年は慌てたように去っていく。 ―――どうしたんだろう? 「待たせたな。 じゃあ今から札を貼って・・・」 入れ違うようにして入ってきた取り締まりの男は首を傾げた。 「あれ? 既に全員に貼ってある。 ちッ、仕事がかち合ったか。 だからいつも段取りが悪いって言ってんだよ」 先程の少年とは雰囲気が全然違いダルそうに愚痴を零す男。 一瞬でこの場にいる奴隷たちの表情がは強張った。 「まぁ、正規の札だし手間が省けたことにするか。 おい、お前ら!」 突然この場にいる奴隷に注目させる。 「この札は俺が付けた。 いいな!?」 「「「・・・」」」 奴隷たちはうんともすんとも言わず虚ろな瞳だ。 身体に傷がある者もいる。 もしミーシャが泣き喚いていたり嫌がっていたりすれば、同じように殴られていたのかもしれない。 ―――反抗すらできない私たちに、生きる意味があるのだろうか。 そうこうしているうちにオークションが始まった。 ミーシャの番が来る。 ミーシャがステージに上がると何故か注目を浴びた。 ―――どうしてざわついているんだろう・・・? 始まり値は奴隷商が親から買った40万ゴールドから値段が吊り上がっていく。 一日畑仕事をして得られるお金が一日当たりで200ゴールド程。 ミーシャからしてみれば法外で縁のなかった大金である。 ちなみにミーシャの前の奴隷は100万ゴールドくらいで売られた。 日常で見ることのなかった大金が自分の値段として付けられていくことが何となく快感だった。   ―――それにしても、思っていたより若い人が多い。 ―――オークションはお金持ちのおじさんやおばさんが来るイメージだったのに。 上値も出揃い3000万ゴールドからほとんど値が上がらなくなったその時だった。 「一億だ」 いきなり扉を開け放ち、現れた仮面を付けた一人の男。 その男はニヤリと笑った。 「その女は俺が買う」
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