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千切れた雲の欠片の影がさっと頭の上を通り過ぎた。
結局、ジャンヌを見殺しにしたのは他ならぬ自分なのだから、こんな風に沈み込むのはおかしいだろう。
だが、自分はどこかで彼女がまた危機を脱して生き延びてくれるだろうと、再びあの面影に相見えるだろうと信じて願っていたのだ。
サーッと緑の揺れる音が思い出したように遠く響いてきて、青臭い枝葉と土の匂いが通り過ぎた。
千切れた白い雲は形を失い、空の青に溶けるようにして紛れていく。
小さな雲の船が跡形もなく消えた碧空の一角をさっと鳥の黒い影が一羽だけ流れた。
あれは何の鳥だろう。遠過ぎて、逆光になった影しか判らない。
と、視野全体がじわりと熱く空の水色に滲んだ。
そうだ、自分はジャンヌを失って苦しいのだ。彼女の死が耐え難いのだ。悲しむ資格など本来持たなくても、この胸を引き裂くような痛みを感じていないと己を偽ることはできない。
初夏の陽射しの眩しさに耐えかねた振りをして片手で両目を抑えた。掌がたちまち濡れて指の隙間からも涙が流れ落ちる。
「何故」
自分にだけ聞こえる声で呟く。
答えの代わりにザワザワと木の葉と枝の一斉に揺り動く音が四方から響いてきた。
青葉と土の本来は爽やかな匂いを吸い込む度に胸の中では軋むような痛みが走る。
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