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「許してくれ」
自分の声がいかにも不甲斐なく響くのに舌打ちしたくなる。
「余が王位に就けたのはそなたのおかげなのに」
剣さながら鋭く光る角を持つ馬に乗った乙女は生のままに伸びた栗色の髪を風に揺らすだけで何も答えない。
今は夢だから近付いて一角獣の角に刺されようが蹄で蹴られようが、自分が本当に死ぬことはないのだ。
だが、そうと知っているからこそ、手を伸ばせない。
これはすぐ傍に立っているのにまるで水面に映る影のように決して触れて掴み取ることの出来ない幻なのだ。
「余にとって真の勇者はそなただ」
生前は戦いに明け暮れ、与えられる以上の地位や富には一切興味を示さなかったオルレアンの乙女。
彼女は今、むしろ生き残ったこちらこそが仮初めの存在であるかのように透徹した眼差しで見下ろしている。
何故この面影を失ってしまったのだろう。守ろうと強く動けなかったのだろう。
思わず我が衣の胸を握り締める。傷一つ負っていない、服の綻び一つも損なわれていない自分の姿がいかにも怯懦の証のように思われた。
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