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第一章:乙女は去りぬ
「そうか」
耳の中に掠れた声が響く。
ずっと予想していた結果を知らされた。それだけなのに、いざ現実になると、想定した以上の打撃を受けていると自分の声からも分かる。
――殿下、お初にお目にかかります。
二年前に謁見した、波打つ栗色の髪を切り揃え、輝く榛色の、透き通った茶と緑の混ざり合った瞳を持つその顔は、美女というより美少年じみて見えた。“神のお告げを聞いたと申しているドンレミの百姓の娘”と聞いて予想していたどの姿よりも秀麗だったことも、廷臣たちに紛れて立っている自分の所に迷いなく歩み寄ってきたことも、全てが衝撃であった。
「助からなかったか」
――私はジャンヌと申します。ドンレミから参りました。
静かに澄んだ声で語ったあの乙女が、あの清らかな面影が火炙りにされてしまったというのか。
ザワザワと開いた窓の向こうで木々の枝葉のざわめく音がして、青臭い緑の匂いが流れ込んでくる。そろそろこの城の外にも夏が訪れようとしているのだとどこか冷静な頭で思った。
「ご苦労であった」
使者に告げると席を立つ。一瞬、ふらついた足元を辛うじて踏み締めて部屋を出る。
これ以上、絶望的な報せを受けた空間に身を置きたくなかった。
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