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雨と劣情
「女の子とするときのための練習台になってくんない?」
我ながらバカなこと言いだしたもんだ。
幼稚園時代からの腐れ縁を相手に、俺は今日キスをする。
ちなみに、男だ。
OKをもらえたのも不思議な話。
「ごめん、遅くなった」
外は雨が降っているのか。俺の部屋にやってきた、ヤツの濡れた髪を見て思う。制服のシャツやカバンも少し濡れている。
「じゃ、早速始める?」
いきなり言うから急に緊張してきた。
まだ心の準備が…って、言い出したのは俺なんだから心の準備は先にしとけよって。
「う、うん、じゃ、いくよ…?」
うわぁ、近い、近い!
そりゃ昔は一緒に風呂にも入った仲だけど。
…意識し始めてからは、こんな近くで見るの初めてで。
そう、俺はこいつに惚れてて、練習台なんて嘘っぱちで、ただの口実。
こんなことでもないと、キス、なんて、永遠にできるはずないから。
雨音が激しくなってきて、部屋の中の静けさをより際立たせている。
あいつはいつでもどうぞと言わんばかりにニコニコしながらじっと俺を見ている。
「自分からしなきゃ練習にならないだろ?」
なんて言って。
ゴクリ。
自分の喉から鳴った音に自分でびっくりした。
キ、キス、するぞ。
は、初めてのキス…
ちゅ。
これ、いつまで口くっつけてたらいいのかな。
もう離したほうがいいのかな。
…
突然、目を開けたあいつは、口を開けて俺の唇に吸い付くようにキスし返してきた。
何が起こっているのかわからずぼうっとしてたら、俺の頭をがっちり抱え込んで、角度を変えて何度もキスをしまくってきて。
いや、そこまで練習するつもりは…!
「もっとしてもいいよ?」
ニコッと笑ってヤツが言う。
何を?!
あいつからしてくるキスは、俺がしたちゅっ、てやつなんかとは音からして全然違って、ピチャピチャくちゅくちゅと水っぽい音を立てる。
だけどそのいやらしい音は、より一層激しくなった雨音がかき消してった。
そんなこと考えてるうちに、なぜだか畳の上に押し倒されていた。
「もっといろんな練習、しよっか」
笑ってるのに、俺を見下ろすヤツの目が怖い。
「ま、また今度!」
跳ね起きた反動でヤツを突き飛ばし、そのまま走って階段を駆け下り、すぐ近くの自宅へ逃げ帰った。
はあはあと息が苦しく、湿気と雨と汗とが入り混じって全身びしょ濡れだ。
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