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11 私が選ぶなら夫は彼しかいないでしょう
「オーロラ、わかっているんだ。それほどまでに武勲をあげて名を売り、押し寄せる求婚を断り続けている理由。私を待っていたのだろう?」
「いいえ、違います」
丁寧に、それはもうこの上なく丁寧に、言い返す。
「ハハハ、照れなくてもいいんだ。酷い言葉で傷つけておいて、手紙だけで済まそうだなんて本当に私が悪かったよ。強く美しい女神オーロラ・カッセルズ、今一度、この私から結婚を申し込もう」
「お断り致します、公爵様」
「いつまでも怒るものじゃないよ、ただでさえ大きくて恐いんだから」
う~ん、痛い目に遇いたいのかしら?
「もう終わった戦いについて勝敗を蒸し返すのは、些か信念に反します。お引き取りください。そしてどうか、小さくて可憐な奥方様を娶られますように」
「オーロラ」
「私は幸せになりたいのです。私よりも大きくて強い夫の傍で、妻らしく夫を支えます。どうぞお立ちください。そして鏡の前に並んでみましょう。そうすればおわかり頂けますね? どちらが、どのくらい、大きいのか」
「……気は変わらんか」
「それにまた太るかもしれません。冬が、寒すぎて」
結局、この一言が効いた。
美醜で態度を翻すような男たちは、体だけでなく心も軟弱なのだ。
それにさっさと追い出したい理由があった。
事前に受け取った手紙にあった通り、ダニエルはほぼ着の身着のままに近い小さな旅行鞄ひとつでやってくると、気まずそうな取り乱し方で額の汗を拭った。
「いやぁ、参ったよ。お前の気持ちがよくわかった」
「たった3人から逃げてきただけのくせに、よく言うわ」
「うちが破産寸前なのを知って金をちらつかせてくるんだぜ? 俺を金で釣ろうって、それがいいお嬢様のする事か? しかもそのうちのひとりは王族だった」
「やばい。首を刎ねられちゃうわ」
親指を首の前でスライドさせて、私は肩を竦めて見せた。
それから父の書斎に向かう。いつもいるわけではないから、父の滞在に合わせてという意味でもダニエルはかなり急いで来たのだ。
「お父様、お時間とらせてごめんなさいね」
「おじ様、今日はありが──」
初老にさしかかっても尚、筋骨隆々とした大男である父は、らしくもなく眺めていた手鏡をサッと隠して、鷹揚に笑った。
ダニエルは気づいている。
父は、禿を気にしている。
テカテカと光る丸い頭を凝然と見つめて、ダニエルは時を止めていた。
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