11 私が選ぶなら夫は彼しかいないでしょう

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 ばしん、と一発。背中を叩く。 「おふっ。ごご、御無沙汰です」 「おお、ダニエル。また男前になって」 「オーロラほどじゃありません」 「ふぁっはっは! 謙遜はよそう。一族郎党、皆、驚いた」  ぐるりと目を回して笑う父は、そこそこ本気だ。 「で、話とは?」 「あ……おじ様、俺……」    ダニエルがもじもじし始めた。  もったいぶっても意味のない事だ。  私は手振りを交えて簡潔に説明した。 「かいつまんで言うと、ダニエルと手紙で話し合ったの。この間の山荘でお互いにわかったのよ。私は彼と生きていきたいし、彼も私と生きていきたいって」 「はい」  大きく頷くダニエル。  らしくもなく、緊張している。 「俺は、オーロラが痩せたのを知らなかったし、予想より美人で驚きました。規格外の大きさでも求婚が殺到するのは当然です。俺が求婚しなかったのは、そんな浮ついた騒ぎに混ざりたくなかったからです。昔からオーロラを愛していました。太っているか痩せているかは関係ありません。オーロラがどんな姿でもいいんです」 「ねえ、バケモノじゃないのよ」 「オーロラ。言わせてやれ」  私は口を噤んだ。 「オーロラと生涯をともにしたいです。どうか、結婚の許可をください」  ガッハッハ!  と、カッセルズ将軍つまり父が仰け反って笑う。 「ダニー坊やが息子になるのか! ああ、めでたい!」 「……それじゃあ」 「もちろん許可するさ! 大・歓・迎だ!!」 「私に言おうって気持ちはないわけ?」  頬を染めて燥ぐ父から、隣に立つ私に目を向けて、ダニエルは戦慄いた。  私はせっかく覚えたしなやかな身のこなしでダニエルの首に腕を回し、しなを作って微笑んで見せる。なんなら片目も瞑る。カチコチに固まったダニエルは、なんだかんだ言って私に釘付けだ。 「愛してる」 「私も愛してるわ。仲良くやりましょう、旦那様」  まさかファーストキスを父の前でするとは思っていなかったけれど、ロマンチックな事なんてどうせふたりきりの秘密だから、構わないでしょう?  ところで、破産寸前のグランヴィル家がその後どうなったか。  ダニエルの予定通り、世界各地の別荘に管理人をつけて貸し、3つ所有していた城はホテルにした。そしてダニエルと私は共同名義で旅行会社を作り、世界を飛び回って楽しく暮らしている。もちろん、破産はしていない。  そしてパンフレットには、世界の伝統衣装を紹介するダニエルと私の写真を載せ、これがとても人気だ。  なんと言っても美男美女で、親友同士のおしどり夫婦だから。                               (終)
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