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2 求婚と再会
「お美しいオーロラ嬢、ぜひ私とダンスを!」
「……いえ、気分が優れませんので」
「おおおう、それは残念。あちらでシェリー酒でもいかがですか?」
「ひとりにしてください」
社交界にはもう、うんざりだ。
1年前は私を大男として扱っていた貴族連中が、鼻の下を伸ばして目を血走らせて、熱い鼻息と視線を無遠慮に注いでくる。鬱陶しいし気色悪いし、なにより、その態度にむかつく。
痩せていようと太っていようと、私は私だ。
令嬢の義務を果たすためダイエットしたけれど、得たのは名誉ある結婚ではなく、男たちの情欲。別に初めて会う男が私を美女として扱うならいい。私より弱いくせに、私が痩せたから雄の欲をぶちまけようと言い寄ってくるなんて、侮辱もいいところだ。
あんな生っちょろい軟弱貴族共の首なんて、一捻りでヤれる。
父と兄への忠義だけが、私の理性を繋ぎとめていた。
でも私とて、この思いがけない美貌を武器にしないわけでもない。
とにかく将軍である父と兄に恥じない、きちんとした結婚をするのだ。
新しく出会う公爵か侯爵か、まあ、伯爵と。いずれ爵位を継ぐというなら子爵や男爵でもいい。いくら強くても騎士は論外だ。……いい友人にはなれそうだけど。
ひとつ救いなのは、父と兄も男たちの豹変した態度に憤怒している事だ。
「娘は娼婦ではない!」
とか、
「妹は踊り子ではない!」
とか言って、憤慨してくれる。
だから顔見知りの貴族たちから急に求婚が殺到するようになった今でも、それらを問答無用で弾き返してくれる。父と兄も、私が誇りを穢されるような結婚は望んでいないのだ。
そしてまた今夜も、舞踏会に招かれた。
馬車と汽車を乗り継いで3日も旅をしたのは、比較的新しい顔ぶれに期待できるからだ。それに、聖誕節を終えたばかりで、人々にはまだ神聖な精神が残っている。
まあ、不埒な行いに及ぼうとしてきたら、一捻りにするけど。
雪の降り積もる寒い夜、広間は楽団の音楽と熱気でとても賑わっていた。
あまり馴染みのない顔の中で集める視線は、純粋に気持ちがいい。私は背が高くて、美人で、1日4時間のダンスレッスンのおかげで身のこなしもしなやかだ。
男のように狩りをしたりハイキングしたり馬に乗るのも楽しかったけれど、女としての賞賛もなかなかいい。
でも、馬に乗りたい……
堅苦しいドレスを縫いで、走って、寛いで……
「……」
寛大な夫を見つけよう。
私はもう選ばれるのではなく、選ぶだけの美貌を手に入れたのだから。
「!」
すれ違いざまに肩がぶつかり、私はくるりと身を翻した。
行儀よく詫びるつもりだった。第一印象は大切だから。
でも、相手の顔を見て、驚きで口を噤んだ。夢かと思った。
「あれっ、オーロラ!?」
彼は、目を丸くして、そう声を張り上げた。
そして、懐かしい笑顔とともに、くしゃっと目を細めた。
「なんか痩せた? ちゃんと肉食ってる?」
ダニエル・グランヴィル。
毎年、冬になると砂漠の別荘地でよく一緒に遊んでいた伯爵令息だ。
2年ぶりの思いがけない再会に、胸が躍った。
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