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8 アヴァンズロック
例えば何年もずっとキャロルが兄の隣を独占してきたように、ノーマは気づくと僕の傍らにいた。
あれから4日あけて兄がノーマをピクニックに誘った。
アヴァンズロックの麓の一帯は、長くピクニックに用いられてきた美しい場所だ。小川と草原がちょうどよく広がり、先人たちから受け継いだ共有の切り株や石のテーブルがある。ただ山を眺めているだけで心が安らぐ、素晴らしい場所だった。
ジョシュアとアーサー、それにベネディクトが館に残っている。
キャロルはダニエルが誘っても来なかった。
朝10時に兄が馬でノーマを迎えに行き、僕とマーカスとダニエルは先にちょうどいい木陰の下にわずかな荷物とランチボックスを置いて、釣りを始めた。
ノーマは動きやすそうな夏のドレスで、藤かごのバスケットを抱えてやってきた。さらしで赤ん坊でも抱えるかのようにうまく体に固定したバスケットは、蓋つきで鉛の裏打ちがされている。中から冷えたレモネードの瓶とターキーサンドが出てきて、マーカスとダニエルが雄叫びをあげて喜んだ。
「君は釣りもしなけりゃ馬にも乗れないと言っているが、そろそろ本当の事を喋ったらどうだい? いろいろ特技を隠しているんだろ?」
「釣りはしません」
兄とノーマの会話はこんなものだ。
ノーマはマーカスには社交的に、ダニエルには友のように、それぞれ挨拶を交わした。そして僕にはくしゃっと目を細めて笑いかけ、言葉は発さなかった。
それからずっと、隣にいる。
「釣った魚はこうやって枝に刺して、焚火で焼いて食べるんだ」
「えっ? 食べるの?」
ダニエルにノーマはかなり心を許している。
「魚、食べた事ありませんか?」
「いえ。食べましたけど……」
マーカスはあくまでダンフォード造船所経営者の娘として丁寧に接していた。
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